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ケーキ

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「た、ただいま!」

「お帰り~!」

僕は、大急ぎで仕事を済ませ家に戻った。



「わ……」

「何?」

「何って、凛子…ケーキは?」

「あぁ、全部食べたよ!
すっごくおいしかったから止まらなくなっちゃって……」

凛子は、そう言ってちょっと照れたように笑う。
それとは裏腹に僕は鼓動が速くなる。



だって…あのケーキには指輪が埋めこんであったんだから…
女の子はサプライズが好きとかで、指輪をケーキに埋めこんでおくっていう方法をネットで知って、僕は早速それを実行した。



「本当に全部食べたの?」

「うん、そうだよ。
……なんで?」

なんでと聞きたいのはこっちの方だ。
なんで、指輪に気付かないんだよ!?
確かに、凛子は普段からボーっとしてる所がある。
でも、まさかあの指輪に気付かないなんて……
まぁ、そのうち出てはくるだろうけど……そんな指輪、付けてくれるだろうか?
いや、その前に大丈夫なんだろうか?
まさか、指輪が胃や腸にひっかかって大変なことになったら……



「凛子!病院に行こう!」

僕は、急に心配になり凛子の腕を掴んだ。



「え…な、なに?
慎ちゃん、どこか具合が悪いの?」

「違う!具合が悪いのは君だ。」

「慎ちゃん?何言ってるの?
意味がわからない。」

「理由は……」

こうなったら全てを話すしかない。
そう思った時、凛子の携帯が鳴った。
凛子は僕の手をふりほどき、電話を取った。



「玲子?何?
うん、うん……え……変なもの!?」

凛子は妹と話してるようだった。



「うん、わかった。」

凛子は電話を切り、不機嫌な顔を僕に向けた。



「玲子ちゃん、なにか用事?」

「うん、なんかそうみたい。
ところで、慎ちゃん…一体、何なの?
なんで病院に行くなんて言い出したの?」

「うん……それが……」

話すタイミングをはずしてしまったせいで、なにか話しにくい。
もしも手術なんてことになったら…凛子は怒るだろうな。
彼女のご両親もそうだ。
もしかしたら、結婚を許してもらえないかもしれない。
そんなことを考えると、なおさら話しにくくなってくる。
かといって、このままにしておくことも出来ないし……



「慎ちゃん……!」



その時、玄関のチャイムが鳴った。
僕はこれ幸いと玄関に向かい、凛子も僕の後に着いて来た。



「玲子ちゃん!」

悪戯っぽい顔で微笑む玲子ちゃんは、掌を開いて指輪を見せた。



それから僕達はお互いの隠し事を話し合い……
僕はあらためて、指輪を凛子に手渡して…玲子ちゃんに冷やかされながらプロポーズをした。



(サプライスはこりごりだ……)



そう感じながらも、とても記憶に残る一日となった。 
 
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