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掃除機
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「あの~……」
恐る恐る開けた扉の先は、一見すると喫茶店みたいで…でも、喫茶店にしては狭いし、テーブルと椅子は1セットしかない。
かといって、病院っぽい雰囲気もないし、お店でもなくて……
何のためのスペースなのかわからない。
それを実感すると、なんだかとても怪しい気がして来た。
(やっぱり帰ろう……)
そう思って引き返そうとしたまさにその時……
「いらっしゃい!」
愛想の良い明るい声に、私は思わず立ち止まった。
振り返ると、そこにはいかにも優しそうな中年のおじさんが、なぜだか掃除機を持って立っていて……
「どうぞ、お掛け下さい。」
「は、はい。」
何か悪いことをしたわけでもないのに、私は妙におどおどして、言われるままに席に着いてしまった。
「何を飲まれますか?」
「え……あ、そ、それじゃあ、ココアを。」
「はい、少々お待ち下さいね。」
おじさんは掃除機を置いて、部屋の奥に入って行った。
オーダーを取りに来た所を見ると、やっぱりここは喫茶店?
***
少し前、携帯の調子が悪くなって、私は家の近所のショップに向かった。
近所とはいっても、駅の反対側だからあまり行く事がない。
ショップを探しているうちに、私は偶然ここをみつけた。
「あなたの心の中を、綺麗さっぱりお掃除します。」
見落としてしまいそうな小さな看板にはそうとだけ書かれていて……
携帯を修理に出し、直ったものを取りに行った時にもまたその道を通り、その度に私はそこのことがだんだんと気になった。
でも、この前は店の前まで来たもののそのまま帰って、今日になってようやく扉を開けることが出来たわけなんだけど……
「お待たせしました。」
そんなことを考えているうちに、良い香りと共にココアが運ばれて来た。
おかしなことにそれは二つ。
おじさんは、ココアを私の前とその向かいに置いて、当然のようにその席に座った。
「さ、さ、どうぞ。
熱いから気を付けて下さいね。」
「え?あ、は、はい。」
なんだかわからないままに私はココアに口を付けた。
(おいしい……)
期待していなかった本格的な味に私は感動した。
「外は寒かったでしょう。」
「はい。今週はとても冷えるみたいですね。」
「僕は猫と一緒で寒いのが苦手なんですよ~
この季節は、温かい土地にいれば良かった。」
その言葉に、私は小さな違和感を感じた。
温かい土地にいればよかったってことは……
「それはそうと、どんな記憶を綺麗にしますか?」
気になったことを質問しようかどうしようかと考えていた時に、おじさんの方から質問が投げかけられた。
それもよくわからない質問で……
恐る恐る開けた扉の先は、一見すると喫茶店みたいで…でも、喫茶店にしては狭いし、テーブルと椅子は1セットしかない。
かといって、病院っぽい雰囲気もないし、お店でもなくて……
何のためのスペースなのかわからない。
それを実感すると、なんだかとても怪しい気がして来た。
(やっぱり帰ろう……)
そう思って引き返そうとしたまさにその時……
「いらっしゃい!」
愛想の良い明るい声に、私は思わず立ち止まった。
振り返ると、そこにはいかにも優しそうな中年のおじさんが、なぜだか掃除機を持って立っていて……
「どうぞ、お掛け下さい。」
「は、はい。」
何か悪いことをしたわけでもないのに、私は妙におどおどして、言われるままに席に着いてしまった。
「何を飲まれますか?」
「え……あ、そ、それじゃあ、ココアを。」
「はい、少々お待ち下さいね。」
おじさんは掃除機を置いて、部屋の奥に入って行った。
オーダーを取りに来た所を見ると、やっぱりここは喫茶店?
***
少し前、携帯の調子が悪くなって、私は家の近所のショップに向かった。
近所とはいっても、駅の反対側だからあまり行く事がない。
ショップを探しているうちに、私は偶然ここをみつけた。
「あなたの心の中を、綺麗さっぱりお掃除します。」
見落としてしまいそうな小さな看板にはそうとだけ書かれていて……
携帯を修理に出し、直ったものを取りに行った時にもまたその道を通り、その度に私はそこのことがだんだんと気になった。
でも、この前は店の前まで来たもののそのまま帰って、今日になってようやく扉を開けることが出来たわけなんだけど……
「お待たせしました。」
そんなことを考えているうちに、良い香りと共にココアが運ばれて来た。
おかしなことにそれは二つ。
おじさんは、ココアを私の前とその向かいに置いて、当然のようにその席に座った。
「さ、さ、どうぞ。
熱いから気を付けて下さいね。」
「え?あ、は、はい。」
なんだかわからないままに私はココアに口を付けた。
(おいしい……)
期待していなかった本格的な味に私は感動した。
「外は寒かったでしょう。」
「はい。今週はとても冷えるみたいですね。」
「僕は猫と一緒で寒いのが苦手なんですよ~
この季節は、温かい土地にいれば良かった。」
その言葉に、私は小さな違和感を感じた。
温かい土地にいればよかったってことは……
「それはそうと、どんな記憶を綺麗にしますか?」
気になったことを質問しようかどうしようかと考えていた時に、おじさんの方から質問が投げかけられた。
それもよくわからない質問で……
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