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ミシン

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「ミシェル!ここはこれで良いの?」

「どこ?あぁ、そこはゆっくりと小さな目で縫ってね。」

「わかったわ。ありがとう。」



私のデザインしたドレスが、少しずつ、形になっていく。
それは、私にとって至福の一時だった。







カタカタカタカタ……



お母さんの踏む規則正しいミシンの音が、私の子守唄だった。



私の父は早くに亡くなり、お母さんが仕立て物をしながら
、私達を育ててくれた。




「お母さん、私もミシンを使ってみたい。」

「そうね。ミシンを使うにはもうしばらくかかるわね。
さ、ここからここまで、シツケをかけて。」



私はまだ幼い頃からお母さんの仕事に興味があり、少しずつ、手伝いを始めた。
私はミシンが使いたかったのだけど、お母さんが教えてくれたのはお裁縫の基本ばかりで、ミシンにはなかなか触らせてくれなかった。



初めてミシンを触らせてもらったのは15歳の頃だった。
その頃には、私は裁縫の基本は出来るようになっていたし、母の仕事を手伝えるようになっていた。



「ミシェル…あなた、仕立て屋さんで働く気はない?」

「え?」

「私にはあなた達がいたから、家で仕立て物をしていたけれど、お店で働いた方が新しい技術も身に付くし、いろんなオーダーが入るから、あなたのためにも良いと思うわ。
実は、メアリーさんにも頼まれてるの。
腕のある若い子が欲しいらしいのよ。」

「でも、私なんて……」

「あなたなら、やれるわ。」



結局、私はメアリーさんの仕立て屋で働くようになった。
そこでは、今までに仕立てたことのないドレスや男性の礼服等のオーダーもあり、私は新しい技術をどんどん身に付けていった。



「ミシェル、ちょっと良いかしら?」

「はい、メアリーさん。」

「今日、シェアリー様からご依頼を受けたんだけど、このシルクの布で、娘さんのドレスを仕立ててほしいんですって。
娘さんは、明るい性格だからこういう色味がお好きらしいんだけど、お母様のご希望としては、派手になり過ぎないようにしたいらしいのよ。
どんなデザインが良いかしら?」

「そうですね。でしたら、こういうのは…」

私は紙にデザインを描いた。
昔から、私は服を考えるのが好きだったから、雑作ないことだった。



「良いわ!品があって、素敵だわ!」



私のデザインはシェアリー夫人にもとても気に入ってもらった。
それからは、デザインを頼まれることも増え、店は大繁盛し、忙しい毎日を送った。
そのうち、私の評判はさらに遠くまで広まり…



「ミシェル、大変よ!」

「どうしたんですか?」

「王妃様から…王妃様からの依頼が来たのよ!」

「な、なんですって!?」

目を丸くしたミシェルは、封筒を受け取った。
そこには、近々結婚する王子の妃のために、ウェディングドレスを作って欲しいと書いてあった。



「とにかくすぐにお城に行かなきゃ!」



私はメアリーさんと一緒に馬車に揺られ、王都のお城へ向かった。
初めての大都会、それだけでも感激なのに、私達はお城に行き、王様や王妃様と謁見して…
それからは、目まぐるしい毎日だった。
いくつものデザインをして、採寸をして、仮縫いをし…
お店の人達も来て、朝から晩まで働いた。



やがて、私のデザインしたウェディングドレスは完成した。
おそらく、この国で一番美しいドレスだ。



「王子様、おめでとうございます!」

「お妃様、おめでとうございます!」

テラスから民衆に手を振る王女様は、身にまとった最高のウェディングドレスに負けないくらい、美しく…
私は思わず感激の涙を流した。
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