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ロシアンルーレット

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「俺、やだよ。」

「俺だって言えない。」

「俺も嫌に決まってんだろ。」

さっきから、部室は気まずい雰囲気に包まれていた。



「絶対ボコボコにされるよな。」

「八つ当たりだから酷いよな。」

「俺、絶対いやだ~」



三人は高校の同級生だ。
現在、高2である。
皆『リーゼント同好会』に入っている。
この『リーゼント同好会』には他に部長の藤堂という者がいる。
藤堂のみ、3年生なので、同好会では圧倒的権力を握っていた。




先日、三人は藤堂から頼まれた。
学園のマドンナ片平美月にラブレターを渡して来いという依頼だった。



「なんで今時ラブレターなんだ?」

「先輩、めちゃくちゃ字が下手だぞ。」

「漢字や英語も間違いだらけだけど…」

ラブレターの内容がどのようなものかは、想像に難くない。



「とりあえず、渡すだけ渡して逃げよう。」

「そうだな。」

「後のことには絶対に関与しないでおこう。」



三人は、片平美月を呼び出し、藤堂からのラブレターを差し出した。



「何、これ?」

「藤堂さんからのラブレターだ。」

「藤堂さんって?」

「リーゼント同好会の部長の藤堂さんだ。」

それを聞いた途端に、片平の眉間に深いシワが寄った。



「受け取れないわ。」

「な、なんでだよ!」

「いくらなんでも、あの人だけは無理だから!」

「そんな事言うなよ。受け取って貰えなかったら、俺達が困る!」

「無理って言ったら無理なの!」

三人は帰ろうとする片平を必死で引き止め、無理やりにラブレターを渡そうとした。



「やめてよ!」

「とにかく持って帰ってくれ!」

三人は食い下がる。



「しつこいわね!」

片平がラブレターを受け取ったかと思ったら、それを躊躇うことなくビリビリに破いてしまった。



「な、なんてことを!」

呆然と立ちすくむ三人の前で、紙くずと化したラブレターの残骸が風に舞う。



この残酷な現実を、誰が藤堂に伝えるか?ということで、三人は頭を抱えていた。



「こうなったら、あれしかない。ちょっと待ってろ。」

川田が突然、その場から駆け出し、暫くすると戻って来た。



「こんな時になにやってるんだよ。」

「公平に決めるにはこれしかない。コシアンルーレットだ。」

「ロシアンルーレット?」

川田は静かに首を振る。



「違う。コシアンルーレットだ。
この10個の大福の中にひとつだけこしあんが入っている。
それを食べた奴が話すことにしよう。」

山田と牧田は、川田の差し出した大福に息を飲む。



「ようし、俺からだ。」

山田が大福に手を伸ばし、一口かじった。



「やった!粒あんだ!」

「じゃあ、次は俺だ!」

牧田が、山田と同じように一口かじる。



「やったぞ!粒あんだ!」

「次はおれだな。」

川田がかじったのも粒あんだった。



「うまいな、この大福。」

二巡目もまたみんな粒あんだった。
三巡目、山田は粒あん、牧田も粒あん。
大福はあと二つ。



川田が選んだ大福は粒あんだった。



「じゃあ、これが…」

ひとつ残った大福を山田が割ってみると確かにそれはこしあんだった。



「って、これじゃあ、どうなるんだよ!」

三人はまた頭を抱えるのであった。

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