タイトル未定

ルカ(聖夜月ルカ)

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1:旅立ちの日

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「今月は、この村の創村200年記念月間なんじゃ!
今月中に旅に出る者には、装備とアイテムセット、それにお祝金と冒険者ストラップまでもらえるんじゃ!」

「そんなもん、いらねぇよ。
俺はもっと涼しくなってから行くさ。」

「ディヴィッド…我が家にはもう金はない。
このチャンスを逃したら、こんなことは300年記念までもうないぞ。
そうなりゃ、おまえは無一文でアイテムや装備品ももたずにここを出て行かねばならんことになるんじゃぞ…」

老人の瞳があやしく光った。



「えっ…ば、馬鹿な!
そんなことになったら、俺、生きていけねぇぞ!」

「そうじゃろうなぁ…
おまえは皮下脂肪がたっぷりあるからしばらくは大丈夫じゃろうが…
それでももって一週間…」

「やいっ!くそおやじ!
実の息子に向かって、よくもそんな冷たい事が言えるもんだな!」

「馬鹿者!
わしはおまえが可愛いからこそ、そんなことにならんようにと旅立ちをすすめておるんじゃないか!
この機会を逃したら本当におしまいなんじゃぞ!」

老人の拳は震え、瞳にはうっすらと涙がたまっていた。



「と…父さん…」







次の日、ディヴィッドは、旅立ち届けを村の役場に出しに行った。




「父さん、母さん、旅立ち届けを出して来たよ。
旅立ちは一週間後と決まった。」

「い、一週間後…!」

「おぉ…ついに…」







やがて瞬く間に一週間は過ぎ、旅立ちの日がやってきた。



「じゃあ、行って来るよ。
父さん、母さん。」

「ディヴィッド…」

たぬきのような腹は服の上からでもよくわかったが、帽子のおかげで光る頭は隠された。
旅立ちの服は若い男子向きのデザインなのでディヴィッドにはとても不似合いだったが、親馬鹿な両親の目にはそうは映らなかった。



「とてもかっこいいよ!」

「どっかの俳優のようじゃな。」

「だろ?
服装さえしゃきっとすれば、俺だってこうなるんだ。
ここに帰って来る時は、可愛い嫁さんが一緒かもしれないぜ!」

ディヴィッドが自信満々な笑顔を見せる。



「それもそうじゃな。
そうなったらすぐに祝言の準備をせんといかんな!」

「爺さん、そうなると私達もうかうかしてられませんね。
一生懸命働いて、この子の結婚資金をためとなかいと…」

「その通りじゃ!」

「神父様にも頼んどいてくれよな!
じゃあ、俺、行って来るから!」

ディヴィッドはついに村を出た。
村を出るのは、生まれて初めてのことだ。
老夫婦はディヴィッドの姿が見えなくなるまでちぎれる程手を振り、ディヴィッドは異常に汗をかきながら真っ直ぐに前を向いて歩いて行った…
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