夢の硝子玉

ルカ(聖夜月ルカ)

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それぞれの旅立ち

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「馬鹿を言うな!
ここはあの当時よりもっと治安が悪くなってるんだ。
 教会の支援も、今じゃあめったにない。
それに、俺は身体が悪くなってろくに働けやしないんだぞ。
こんな状態でどうやって暮らして行くっていうんだ!?」

 「そんなもの、どうにだってなるわ。
あなたが働けないなら私が働く。
 今は、小さな赤ん坊がいるわけじゃないんですもの、大丈夫よ!」

 「馬鹿なことを言うんじゃない。
おまえは働いたことどころか、家事だってろくにやったことはないじゃないか。
そんなおまえに一体なにが出来るっていうんだ!」

アンドリューは、思いがけないリュシーの言葉に、動揺を隠せず声を荒げた。



 「あら、お兄様、それは家では私がやる必要がなかったからだわ。
 私、ここにいた時はそれなりにおそうじやお洗濯もしてたんですよ!」

 今まではめったに兄には逆らったことのなかったリュシーだったが、アンドリューに負けじと大きな声で反論する。



 「いや、だめだ!そんなことなら、昔と同じように無理にでもおまえを連れて帰る!」

 「お兄様、私はもうあの頃の私とは違うのよ!
お兄様がどんな手を使ってきても、私は戻りません。
イリアスと引き離されるくらいなら、いっそのこと…」

 「リュシー!!」

アンドリューは、目を吊り上げて一際大きな声を上げた。



 結局、リュシーのその言葉がきっかけになり、イリアスは町を出ることを決断した。
 一旦、アンドリューの屋敷に戻り、しばらく療養し、イリアスの身体が多少マシになってから今後のことを考えようということになった。

 様々な不安を胸に抱えながらも、これからは一緒にいられるという喜びがイリアスとリュシーを温かく包み込んでいた。

 
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