夢の硝子玉

ルカ(聖夜月ルカ)

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それぞれの旅立ち

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 「ジャック、疲れただろう?
 今夜は久し振りに宿でゆっくりするか。」

 辿り着いた町の入口で、フレイザーはジャックに話しかけた。



 「金は大丈夫なのか?ゾラーシュまではまだずいぶんあるんだろ?
 俺なら野宿でも全然構わないぜ。」

 「今夜の宿賃くらいなら全然大丈夫だ。
それに、いざとなればどこかで働かせてもらうさ。
ほら、空が曇ってるだろ?
このあたりには洞穴もなさそうだし、この前みたいなことになったら困るからな。」

フレイザーは鉛色の空を見上げて呟く。
その脳裏に浮かんだのは、土砂降りの中をジャックと走り続けた記憶。
 雨宿りをする場所もみつからず困り果てていた所、雨はようやくやんでくれたが、その後、数日、ジャックの体調は優れなかった。



 「それじゃあ、宿じゃなくて酒場で夜明かししたらどうだ?」

 「まぁ、そう言うなよ。
ここに来るまでずいぶん無理して来たんだし、たまにはゆっくりしようぜ。」

ジャックは、いまだ自分の身の上について話すことはなかったが、フレイザーに対してはずいぶんと打ち解けてきたように感じられた。
フレイザーがジャックと出会ってから早や一月の歳月が流れていた。



 「あんた、仲間を待たせてるんだろ?
こんな所でのんびりしてて良いのか?
ゾラーシュにはまだ遠いんだろ?」

 「そうだな…
地図を見る限りじゃまだけっこうあるな。
 俺があんまり遅いから、もしかしたら、奴らどこかに行ってるんじゃないかな…」

 「そんな!
それじゃあ、なおさらゆっくりなんかしてられないじゃないか!
 仲間と会えなかったらどうするつもりなんだ!」

ジャックは、突然声を荒げ、フレイザーに詰め寄った。



 「ジャック…おまえ、なんだってそんなに…」

 「だ…だって…
仲間に会わなきゃ…その…金が…金が困るじゃないか。
 早く仲間の所に行かないと…」

ジャックのその言葉が真実を語っていないことをフレイザーは気付いていた。
ジャックが気にしているのはそんなことではなく、銀の髪の持ち主…セリナのことだと。
しかし、フレイザーはあえてそのことを口には出さなかった。



 「大丈夫だ。
 今夜ゆっくりしたら、また明日から頑張れる。
 疲れて途中で倒れでもしたら、余計に遅れるからな。
あ、食料も少し買っとくか。」

 目の前に続く商店街を、フレイザーは指差した。
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