夢の硝子玉

ルカ(聖夜月ルカ)

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それぞれの旅立ち

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「……どうかしたのか?」

 「いえ…実は私もイグラシアの出身なので…」

 「なんだって!?じゃあ、あんたは……」

 今度は、男の方が驚き、セリナのことを穴の空く程じっと見つめた。



 「……縁とは恐ろしいもんだな……」

 「縁……?」

 男はゆっくりと頷くと、お茶を煎れて来ると言って台所へ向かった。
セリナもそれを手伝いに男の後に続く。



 「おい、なんだか、おかしなことになってるんじゃないか?
あのおっさん、大丈夫なのか?」

 「確かになにかありそうだが、悪い奴ではなさそうだ。
 話の内容から察するに、あの男はセリナの身内の誰かと知り合いだったのではないだろうか?
 銀色の髪の知り合いというのは、おそらくはセリナの母親か祖母か…」

 「俺も最初はそう思ったんだけど、確か以前セリナは自分だけがこんな髪の色をしてるとか言ってたような気がするんだ。
だいぶ前のことで、しかもあんまり詳しく聞いちゃいけないような気がしてすぐに話を変えたんだけど…確か、そんなことを言っていたはずだ。」

 「おかしいではないか!
それでは、あの男は、セリナを安心させるためにあんなことを言ったのか!?」

ダルシャは慌てて立ち上がり、台所へ向かった。



 「セリナ!」

 「……ダルシャ…どうかしたの?」

ダルシャの心配とは裏腹に、台所は温かい空気に包まれ、セリナと男は呑気にカップを準備している途中だった。



 「……いや、何か手伝うことはないかと思ってな…」

 「珍しいわね。
ダルシャがそんなことを言うなんて…」

セリナはそう言って、おかしそうに笑う。



 「すまんな。うちにはろくな食器がなくて、バラバラなんだ。
うちにはめったに来客なんてないからな。」

 「いえ、そんなことは別に…」

 気抜けしたダルシャはそのまま台所を離れ、二人もトレイを持ってその後に続いた。



 「わぁ、おいしいわ。
オスカーさん、これは何のお茶なんですか?」

 「これは、数種類のハーブをブレンドしたもんだよ。
ロザリアさんがハーブのお茶が好きだったんだ。」

 「ロザリアさん…?」

 男は、カップに残ったお茶を飲み干すと、俯いたままでぽつりと呟いた。



 「今から話す話は、別に信じてくれなくても良い。
ただ…今日は話したくなったから話すだけだ。
おかしな男の戯言だと思って聞いてくれ。」

そう短く前置きをして、男は自分にまつわる不思議な話を話し始めた。
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