夢の硝子玉

ルカ(聖夜月ルカ)

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「……ダルシャ…
こいつのことをよろしく頼む。
 旅の役に立つかどうかはわからないが、こいつにもっといろんな所を見せてやってくれ。
 若いうちはこんな所で畑仕事をしてるより、もっともっといろんなものを見聞きして、たくさんの人と出会った方が良い。
そうしてるうちに、きっと昔のことなんてどうでも良いように思えるようになるさ。
……良いか、ラスター…どんな奴だって、親は親だ。
 親に代わりはいないんだ。
おまえの親にも、なにか深い事情があったに違いないさ。
……いつかおまえがそんな風に思えるようになったら…そして、その時、俺のことをまだ覚えててくれてたら、また会いに来てくれよ。
 俺にはまだまだ長い時間がある。
……いつまでだって待ってるからな。」

 「オスカーさん…俺……」

ラスターの唇は、何かを言いたげに開かれたままだったが、言葉はそれ以上紡がれる事はなく、その代わりに大粒の涙が一粒こぼれ落ちた。



 「馬鹿野郎。
おまえは、こんなことで泣くような柄じゃないだろ!
 何も今生の別れじゃないんだぜ。
 年なんてな、あっという間に過ぎるもんだ。
ぼやぼやしてる時間なんてないんだぜ。」

そう言って、オスカーはラスターの背中を叩く。



 「……あんたじゃないか。
 泣くことは恥ずかしいことでも負けるってことでもないって言ったのは…
泣きたい時はいつでも涙を流して良いんだって言ったのはあんただぞ!」

 「……そんなこと言ったかな。
 忘れちまったな。
 俺がどれだけ長い間生きてると思ってるんだ。
 気の遠くなるような時間だぞ!?
……最近じゃ、もの忘れも多い。
おまえのこともすぐに忘れちまうかもしれないな。」

オスカーはそう言うと、ラスターに背を向けた。



 「あぁ…構わねぇ!
……でも、あんたが俺のことをすっかり忘れても…俺は絶対に忘れない。
どんなに遠くに行ってもあんたのことは忘れないからな。
そして、必ずここへ戻って来る。
その時、あんたがボケてたら俺が面倒みてやるよ。」

 「……馬鹿にするな!
 俺は……俺はボケたりなんかするもんか!
おまえのことを忘れたりなんかするもんか!!」

オスカーは振り向き、ラスターの身体を抱き締めた。
その瞳からは熱いものが止めど無く流れていた。

 僅かの時間の間に、血の繋がった親子以上の絆を築いてしまった二人にはかける言葉等必要ない。
ダルシャは、二人の邪魔をしないように気遣い、そっとその場を離れた。

 
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