夢の硝子玉

四つ目の大陸

２３

「ジャック…さっきはよく我慢したな…」

 「フレイザー…」

 優しい眼差しでジャックをみつめるフレイザーに、ジャックは小さな声で彼の名を呼んだ。




 「ラスターもこれからはあんなことはしないと思う。
 特に仲良くしろとは言わないが…とにかく、喧嘩だけはするなよ。」

 「うん、わかってるよ。
……でも、俺はあいつを許したわけじゃない。
フレイザーにこんな酷いことをしたあいつを俺は絶対に…」

 「……ジャック、もう忘れろ。
あいつも本当に刺す気なんてなかったんだ。
 今回はただ運が悪かっただけ…な…？」

ジャックは悔しそうに唇を噛み締め、何も言わずフレイザーから顔を背ける。



 「ところで、ジャック、朝食は食べた？
 昨夜から寝てないんでしょう？
なにか食べるか、宿でしばらく休んできたらどう？」

 「俺は……」

 「ジャック、そうしろ。
 俺のことならエリオットがいてくれるから心配ない。
 気になるならまた夜に来てくれよ。」

ジャックはそこにいたいと考えていたが二人の視線がまるで自分を追いたてているように感じ、ジャックは渋々病室を後にした。




 ＊



 「フレイザー、痛みはどう？」

 「まだ痛いに決まってるだろ。
 痛み止めはもらったんだけどな。」

 「そりゃあ、輸血するくらい血が出たんだから。
けっこう傷が深かったみたいだよ。
……そういえば、君は確かＢ型だったよね？」

 「そんなこと、よく覚えてんな。」

 「当たり前だよ。
 君がＢ型って聞いた時は、やっぱり！って思ったもの。」

 「どういう意味だよ！」



これからどうしようかと思案しながら廊下の椅子に腰を掛けたジャックの耳に、フレイザーとエリオットの楽しげな笑い声が聞こえた。
そんな他愛ないことが、思いがけずジャックの胸を深く突き刺した。



 （あんな楽しそうに笑ってる…フレイザーはやっぱりエリオットのことが……）

 自分でもよくわからないもやもやした気持ちを抱え、ジャックは診療所を飛び出した。