夢の硝子玉

ルカ(聖夜月ルカ)

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四つ目の大陸

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「……なんだか完全に誤解されちゃったみたいだな。」

 「困ったね…」

 「何も困ることなんてないじゃないか。
この際、それを信じこませておけば良い。
そしたら、俺達の話がラスターにも伝わって、奴もおまえのことを諦めるかもしれないだろ?」

 「それはそうかもしれないけど……」

 「なら、そうしとけって。な!」

フレイザーに背中を叩かれても、エリオットは複雑な表情を浮かべるだけだった。



 *



 「あら、ジャック…今夜は診療所に泊まるんじゃなかったの?」

 宿の食堂の片隅にぽつんと座ったジャックをみつけ、セリナが意外そうに声を発した。
ジャックはセリナを一瞥しただけで、返事もせずに目を伏せた。



 「ジャック…どうかしたの?
 診療所でなにかあった?」

 隣の席に腰を降ろし、心配そうにジャックの顔をのぞきこむセリナに、ジャックは唇を噛み締め、さらに深く俯いた。
その様子に、セリナは診療所でなにかがあったことを確信する。



 「話してくれないの?
だったら、私、今から診療所に行って……」

 「待って!」

ジャックは、席を立ったセリナの腕を掴んで引き止めた。



 「……話すよ。
 話すから……」

 諦めたような小さな声でジャックは呟き、そしてゆっくりと話し始めた。



 *



 「……そう、そんなことがあったの…」

 「……俺…仲良くしてる二人の姿を見たら、なんだか急に腹が立って来て……」

セリナは、ジャックの手を優しく握り締める。



 「ジャック…あなた、まだ自分の気持ちに気付いてなかったのね。
あなたは、フレイザーが好きなのよ。
だから、エリオットに嫉妬したんだわ。」

 「ち、違う!
 俺は……男なんて好きにならない!
 男なんて大っ嫌いだ!
フレイザーのことも…そりゃあ、感謝はしてるけど、好きなんて気持ちじゃない!」

ジャックの激しい否定に、セリナは何か不自然なものを感じた。
だが、その原因を今問いただしても、ジャックが答えないであろうことも容易に推測出来、それ以上尋ねることは無駄だと悟った。



 「……そう、わかったわ。
ね、ジャック…少し休んだらどうかしら?
あなた、昨夜からほとんど眠ってないでしょう?
きっと疲れが出たんだわ。
さ、部屋へ行きましょう。」

セリナに腕を掴まれ、ジャックはそれに素直に従った。
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