夢の硝子玉

四つ目の大陸

３８

「……二人共、どうかしたのか？」

ジャックは、その場のおかしな雰囲気を一瞬で察知した。



 「なんでもない。
 俺はもう寝るからうるさくするなよ！」

フレイザーは吐き捨てるようにそう言うと、頭まで毛布をすっぽりかぶり、二人に背を向けた。



 心配そうな視線を向けるジャックに、エリオットは微笑み頷いて見せた。

 （心配することないよ。
フレイザーはちょっと機嫌が悪いだけだから。
ねぇ、ジャック…ちょっと廊下に出ようか？）

ジャックの耳元で囁くエリオットに、ジャックは小さく頷いた。



 ＊



 「それで、お医者さんはどうだって？」

 「え？うん。
 二、三日とは限らないみたいだけど、だいたいは、フレイザーの言った通りだったよ。
 数日様子を見て特に問題が無ければ、後は通院で大丈夫なんだって。
 傷跡は多少は残るかもしれないけど、目を引くような傷にはならないだろうってことだった。」

 「そう、良かった。
これで君も安心出来た？」

 「え…う、うん、まぁな。」

そう答えたジャックの顔にはほっとしたような笑みが浮かんでいた。



 「……ねぇ、ジャック。
 君には兄弟はいるの？家族は？」

エリオットのその質問に、ジャックの表情は急に暗いものに変わる。



 「……あ、ごめん。
 言いたくなかったら良いんだ。
 今の質問は忘れて。」

ジャックの気持ちを察したエリオットは、早口で打ち消した。



 「俺には……」

 「ジャック、無理に答えなくて良いんだよ。
ごめん、僕、本当に…」

 「……俺には家族はいない…」

それは、エリオットには予想出来ていた返事だったが、そのことが余計にエリオットの胸を痛めた。



 「……ごめんね、ジャック。
いやなこと、聞いちゃって…」

 「……たいしたことじゃないさ。
 家族がいない事なんて、珍しくもなんともないだろ。」

それが本心ではないことは、ジャックの震える肩を見ればすぐにわかった。