夢の硝子玉

ディーラスを目指して

２８

あたりが闇に包まれた途端、ガリオンは本来の攻撃性を取り戻し、逃げるフレイザーの後を一斉に追い駆け始めた。
 草の上を走って来る集団の静かな音が、不気味に響く。
フレイザーの身体から伝わる熱と激しい息遣いから、彼が疲れていることを感じたが、ジャックには何もすることが出来ず言葉さえかけられないでいた。



 「あ…あぁっ！」



フレイザーとジャックの身体が折り重なったまま、宙に舞い、次の瞬間、同時に倒れ込んだ。



 「う……ジャック…大丈夫か！？」

 「うん、俺はなんとも…」

 「そうか…じゃ、逃げ…うぅっ！」



 暗くてその場の状況は見えなかったが、フレイザーの呻き声から何事かあったことをジャックは直感した。



 「フレイザー、どうした…？」

 「な、なんでもない…
奴らが来る前に…うっ」

 何かが倒れるような音に、ジャックは懸命に目を凝らすが、暗い闇の中ではフレイザーの様子は見えない。



 「ジャック…俺は足をやられたようだ。
 俺は走れない…おまえだけ逃げるんだ。」

 「ば…馬鹿なこと言うなよ。
お、俺…あんたを置いてなんて…」

 「……ジャック、急げ！
 足音が近付いてる！
さぁ…早く、早く逃げるんだ！」

 「い…いやだ！」



ジャックはフレイザーの傍に駆け寄り、フレイザーの腕に抱きついた。




 「馬鹿！このままだと、俺達二人共……」

 「……フレイザー、もう遅いよ…
奴らの足音が停まった…
もうきっと周りには奴らが一杯…
 ……フレイザー…ありがとう…」

あたりは不気味な程、静まり返り、ジャックの小さな声が奇妙な具合に響く。




 「何がありがとうなんだ！
 俺はまだ諦めてなんてないぞ。
ジャック、ちょっと肩を貸してくれ！」

 「大丈夫なのか？」

 足の痛みをこらえ、フレイザーはジャックの肩に手を置きゆっくりと立ち上がる。
 肩にのしかかる重みから、ジャックはフレイザーの足が相当痛いのだろうと推測した。



 「よしっ！
もうこれで大丈夫だ。
 適当に剣を振りまわすから、当たらないように離れてろ！」

 「俺も何か…」

 「おまえは良い。
 剣に当たらないよう…」

 「俺にも何か出来る事があるだろ！」



ジャックの大きな声に、あたりでざわざわとガリオン達が動く気配がした。




 「ジャック……俺達すっかりかこまれてるみたいだな…
 ……そうだ！ジャック、今みたいに大声で叫ぶんだ！
あいつら大きな声に反応するみたいだぞ。」

 「わ、わかった！
じゃ、叫びながら少しずつ後退しよう！
もしかしたら逃げられるかもしれない！」

そういうと、ジャックは、素早くフレイザーの肩に回り込んだ。