夢の硝子玉

ルカ(聖夜月ルカ)

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ディーラスを目指して

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「山の中での一人暮らしは想像以上に寂しいものだった。
まだ子供だったっていうのもあったかもしれないけど、誰とも話すことなく過ごしてると、おじいちゃんや母さんのことばかりが思い出された。
それに……い、いや、とにかく俺はそのままの生活をしてたらおかしくなりそうな位に寂しくてたまらなくて…それで、十六になる少し前にようやく決心したんだ。
 町に出てなにか仕事をみつけて暮らしていこうってことを。」

 「そうだったのか…
それでどこに行こうと思ってたんだ?
 誰か頼れるような人はいたのか?」

ジャックは小さく首を振る。



 「頼れるような人なんて俺には誰もいやしない……
だから、特に行くあてがあったわけじゃなかったけど、おじいちゃんが都会には町や家がたくさんあって、大道芸や見世物小屋がしょっちゅう来て、大勢の人達が住んでそれはとても賑やかだって言ってたのを聞いていたから、それでなんとなく都会に行ってみたいって……ただ漠然とそんな風に考えてただけだ。」

 「そりゃあ大変だったな…」

 山から都会とはいえ、見知らぬ世界に行く事の不安は、フレイザーにはよくわかっていた。
しかも、ジャックはひとりっきりだ。
 突然、この世界に迷いこんだ自分よりもきっと心細かっただろうとフレイザーは考えた。



 「そうでもないさ。
 貧乏には慣れてた…いや、俺は自分が貧乏なんだってことさえ気付いちゃいなかった。
 俺には友達もいなかったし、町にもほとんど行ったことはなかったから…
そう……俺は何もわかってなかったんだ。
 俺は山を降り、街道に沿ってずっと歩いた。
 野宿もそれほど苦にはならなかった。
 金がなかったから食べるものには困ったが、中には食べる物をくれる人や、家に泊めてくれる人までいたんだ。
ちょっとした仕事をさせて金をくれる人もいた。
 俺は、他人がそんなに優しいものだとは思ってもみなかったから、とても嬉しくて……もしかしたら俺の未来は思ったよりも明るいものになるんじゃないかって、そんな甘いことを考えたりしてたよ。」

ジャックの口許に自嘲めいた笑みが浮かび、それを見た時、フレイザーは何とも言えない不安な気持ちを感じた。



 「……ジャック、もしかして、その後、何かあったのか?」

ジャックはそれには答えず、何かを思い出すかのように視線を遠くに泳がせる。
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