夢の硝子玉

ルカ(聖夜月ルカ)

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波に揺られて

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 「本当なのか?
 君は本当に気付いてなかったのか?」

 「……どういうことだ?」



 酔った勢いで、ジャックが自分に好意を持っているとセリナに言われたことを、フレイザーはぶちまけた。



 「どうって…
ジャックの態度を見ていれば、彼女が君のことを愛していることは誰にだってすぐにわかるじゃないか。」

 「そ、そ、それじゃあ、あんたも気付いてたっていうのか!?」

 「当然だ。
……しかし、驚いた。
 君がそのことに気付いていなかったとは…
私はてっきり君は彼女のことが好きではないのだと思ってた。」

 「お、俺は……その、ジャックのことは…
だって、俺、あいつが女だってことを知ったのはつい最近なんだぜ。
それなのに、こんなこと…」、

フレイザーはそう言って、頭を抱え口をつぐんだ。



 「それはそうかもしれないが…
それならばなおさらに、今までの態度は好意だったことがよくわかるのではないのか?
 彼女は、健気な程、君のことを愛している。
それは間違いないと断言できるが、必ずしもそれに応えてやる義務はない。
 君が、ジャックに対して特別な気持ちがないのなら、率直にそれを伝えるべきだ。
ただ、彼女の気持ちも配慮した上でだな…」

 「ちょっと待ってくれ。
 俺は、ジャックのことが嫌いなわけじゃない…
正直言って…俺…自分で自分の気持ちがわからないんだ。
どうすれば良いのかわからなくて…ジャックと顔を合わせるのが怖くて…
それで、ここんとこ、ずっとエリオットを呼び出して遅くまで部屋に戻らないようにしてた…
だけど、この先もずっとこんなことを続けてるわけにはいかない。
エリオットともさっき喧嘩してしまったんだ。
 俺が、毎晩遅くまでつきあわせるから…
だけど、あいにく部屋には俺とジャックしかいないし…だから…」

ダルシャは、フレイザーの顔を不思議そうにみつめ、小さく首を振る。



 「君はどう見ても二十代半ばから後半あたりに見えるが…
君の言ってることはまるで恋をしたことのない少年みたいな言い草だな。
まさか、君の年齢で恋愛の一つもしたことがないなんてことはないと思うが、記憶を失っているせいでそんな風になってしまうんだろうか…」

じっとみつめるダルシャに、フレイザーはただ曖昧な笑みを返すことしか出来なかった。
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