夢の硝子玉

ルカ(聖夜月ルカ)

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波に揺られて

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「乱暴なことを言わないでくれ。
……今、開けるよ。」

ダルシャが鍵を開けた途端、フレイザーは部屋の中へなだれこむ。



 「セリナ!なんで……
 ……ジャックは?
ジャックはいないのか?」

 部屋にセリナがいたことと、いると思いこんでいたジャックがいないことで、フレイザーは驚き、落ちつきなく部屋の中をを見渡す。



 「まぁ、かけたまえ。
 今、セリナと君についての込み入った話をしていた所だ。」

 「セリナ…なんでここにいるんだ?
ジャックは?……ジャックはどこにいる?」

ダルシャの話もそこそこに、フレイザーはセリナに質問を投げかける。



 「ジャックが、あなたから避けられてるって、酷く落ちこんでダルシャに相談してきたらしいから、そのことを話しあってたのよ。」

セリナはジャックの居場所についての答えをはぐらかした。



 「ジャックが、そんなことを……」

 「フレイザー、一体どうしたっていうんだ、そんなに慌てて…
まぁ、これでも飲んで気を落ちつかせたまえ。」

ダルシャはそう言いながら、フレイザーにワインをすすめた。



 「ジャックは、君に過去の話をしたから嫌われたと思いこんで、酷く心を痛めているぞ。
 本当にそうなのか?」

 「ち、違う!俺は、あんな過去なんて…
 ……ダルシャ、あんた、ジャックの過去を聞いたのか?」

ダルシャは黙ったままでゆっくりと頷いた。



 「……やっぱりそうか…
 ……それで、あんた、何て言ったんだ!?
あいつを傷付けること、言ってないだろうな!
あいつは、何も悪くないんだ。被害者なんだ!」

 「……フレイザー、どうしたんだ?、そんなに感情的になって…
君らしくないな。
 私には彼女のことを責めるような気持ちもないし、当然、彼女を傷付けるようなことは言っていない。
むしろ、傷付けたのは最近の君の態度だ。
 君に避けられてると思いこみ、彼女はとても傷付いている。」

フレイザーは、何かを考えるようにじっと俯き、そして不意に顔を上げるとグラスのワインをぐいと飲み干した。



 「……すまない。
そうだよな…あんたが人を傷付けるようなことなど言う筈が無い。
……そんなこと、わかってたはずなのに……
あいつのことを避けてたのは本当だけど、もちろんあのこととは何の関係もない。
セリナが……セリナが、ジャックが俺のことを好きだなんてて言うから…
それで、俺、混乱してしまって…」

 話すうちにフレイザーの声は消え入りそうに小さなものに変わっていく。
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