夢の硝子玉

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
上 下
485 / 802
ポーリシアの老女

70

しおりを挟む
「そういえば、おばあさんはどうして魔法を使わないの?」

 「……私はもう年だからね。
 魔力も年々衰えていくからね……」

 「へぇ、そうなんだ。」

なにげなく答えたエリオットに、サンドラは急に表情を強張らせた。



 「あんた……本当に魔法使いなのかい!?」

サンドラは声さえもが先程とは変わり、明らかに不機嫌な様子でエリオットをみつめる。



 「う、うん……
ただ、ボクはそんなにたくさんの魔法を使ったことがないんだ。
っていうか…おかしな話だけど、ボクはどんな魔法を使えるのかも自分ではよくわからない。」

 「どういうことだい?」

 「だ、だから……ボクは記憶をなくしてるから……」

 「え?……あぁ……そうか……そうだったね……」

 納得したように頷いて、サンドラの表情がまた穏やかなものに戻った。



 「おばあさん、どうかしたの?」

 「いや、あんたがあまりおかしなことを言うものだから、嘘を吐いてるのかと思って……
疑ったりしてすまなかったね。
あんたは、骨身を惜しまずこんなに一生懸命働いてくれてるのに……いけないね。
いつの間にか、私は人を信じられなくなってるんだ。」

そう呟いたサンドラの顔が、とても寂しげで……
そのことが、エリオットの心を不安にさせた。



 「おばあさん、何か事情でもあるの?
ボクで良かったら相談に乗るけど……
 ……って、おかしいよね。
ボクなんか何もたいしたことは出来ないのに……
でも……話して楽になれることだったら、ボク、いくらでも聞くからね!」

エリオットは自信なさげに小さな声でそう言った。
サンドラは、伸ばした両手でエリオットの手を握りしめ、口端をあげてほんのわずかに微笑んだ。



 「……ありがとう。
あんたは本当に良い子だよ。
そう言ってもらえるだけで十分だよ。」

 「おばあさん……」

サンドラの小さな瞳にうっすらと光るものを見たエリオットは、急に深い罪悪感のようなものに襲われた。
しおりを挟む

処理中です...