夢の硝子玉

ルカ(聖夜月ルカ)

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ポーリシアの老女

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「何、言ってんだい。
ひとりぼっちなのは私だって同じさ。
……だけど、今はこの子とイリヤが……
エリオットは、もうすぐここを出て行ってしまうけど……ここにはイリヤがいてくれる……」

そう話したサンドラはそのまま黙りこむ。



 「おばあさん、どうかしたの?」

 「……一人がいやなら、あんたもここに来れば良い。」

 「……なんだって?」

 小さな声で放たれたサンドラの言葉に、ジェイコブは驚いたような顔で聞き返す。



 「老いぼれて耳まで遠くなっちまったのかい?
 一人がいやならここに来れば良いって言ったんだよ。
……私にもわかるよ。
ひとりぼっちの寂しさは……
幸い、ここには空いてる部屋がいくつもある。
あんたが一人増えたところでまだいくつも余ってるんだ。」

 「……サンドラ、何を言ってるんだ?」

 「だけど、ここに来たら、昼間っから酒ばっかり飲んでるわけにはいかないよ。
ケーキ作りを手伝ってもらうからね。」

サンドラはジェイコブには特に答えもせず、強い口調でそう言った。



 「ケーキ?俺は、ケーキなんて焼いたことがないぞ。
 俺に焼けるのはパンだけだ。」

 「え?爺さん、パンが焼けるのか?」

 「あぁ、俺は若い頃、パン職人をしていたからな。」

 「そりゃあ良い!
ケーキだけじゃなくて、パンも売れば良いじゃないか!
やっぱり、オーブンはもう一台いるな!
ダルシャに頼んでみよう!」

 「……一体、何の話をしてるんだ?」

 事情が飲みこめず、ぽかんとした顔をするジェイコブに、皆は、これまでの出来事をかいつまんで話した。



 「そ、そんなことがあったのか…
この子が魔法使い……へぇ……この子が橋を……はぁ~、たいしたもんだ。
ところで、サンドラ、おまえさん、なんでこの町に戻って来たんだ?
 町を離れる時、手紙をくれるって言ってたのに、どうしてくれなかったんだ?」

サンドラはジェイコブの顔をみつめて苦笑した。



 「そのことならまた夜にでも話すよ。
 酒でも飲みながらゆっくりとね。
……まずは、みんなで昼食を食べようじゃないか。
エリオット、今日は私も手伝うよ。」

 「う、うん!」
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