夢の硝子玉

故郷へ

５８

＊



「ジャネット…今日は本当に綺麗だった……」

「あ…あぁ…
今日はなんだかすっごく疲れたな。」

「え…あ、あぁ、そうか……
ごめん。」

甘い声を出し、身を寄せて来るフレイザーを、ジャネットは口実を設けてあしらった。
フレイザーは、とても聞き分け良く身体を離す。



「そうだよな。
朝早くから準備して、気疲れもしただろうし…大変だったな。」

「ま、まぁな……
……それはそうと、フレイザー…しばらくはダルシャの家で世話になるとして……それから先はどうするんだ？
いくら広いとはいえ、ずっとダルシャの屋敷で暮らすってわけにはいかないだろ？」

「……そうだな。」

「最初はダルシャに頼るしかないけど、町に小さな家でも借りて二人で暮らさないか？
そして、働いてすこしずつダルシャに返して…
それとも金を貯めてから引っ越すか？
そういえば、ラスターはやってみたい仕事があるって言ってたな。
なんかものすごくやる気になってる。
ダルシャも新たに事業を始めたいって言ってたけど、何をやるつもりなんだろう？」

「……さぁな…」

二人の間に、しばし沈黙の時が流れた。



「フレイザー…怒ってるのか？」

「え…？い、いや、そんなことはない。」

フレイザーは懸命に首を振る。



「だけど、話に全然身が入ってないじゃないか。」

「あ…ごめん。
結婚式のこと思い出して…ちょっとぼーっとしてた。」

不機嫌な表情を浮かべるジャネットをじっと見つめているうちに、フレイザーは込み上げる感情に抗えず、ジャネットの身体を引き寄せ抱きしめた。



「ジャネット…愛してる…！」

「フレ……」

彼の名前を呼ぼうとしたジャネットの唇は、フレイザーの熱い唇に塞がれた。



「フレイザー…ちょっと……」

「ジャネット……どうか信じてほしい…
どんなことがあっても、俺はおまえのことを愛している…
どこにいても、一生、心変わりはしないから……」

「フレイザー……」

目にいっぱいの涙を溜めてそう言うフレイザーに、ジャネットはなにか得体の知れない不安なものを感じていた。