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ルカ(聖夜月ルカ)

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06 はじめて経験したこと

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鏡を見たわけではありませんが、私はきっと顔面蒼白になっていたことと思います。
 一気に不安が押し寄せて来ました。
 金のわっかがみつからなければ私は天界へは戻れないわけですが、いつみつかるかもわからないというのに、それまで私はこの地上で生きる延びることが出来るのでしょうか?
ものすごく不安な気持ちになってしまいました。



 (はっ…そういえば…!!)



 私は、さらに不安になることに気付いてしまいました。
 天使というものは、その人間の将来についてもかなりの確率で見通しがきくのです。
 神様程ではないのですが、特に近い将来のことでしたら、「この状況は、こうなる」ということがイメージとして見えるのです。
 人間達が予知とか透視とか呼ぶ力のことですが…な、な、な、なんと!
 私には自分がこの先どうなるのか、まるでわからなくなっていたのです。




 「はぁぁぁぁぁーーーーー」



 私は、また1つ幸せを逃しました。
もう、そんなことはどうだって構いません。
やはり、私の天使としての能力はすべて奪い去れてしまったようです。
 天使である私が能力を失い、たった一人でこの過酷な人間界でこの先生きていけるはずがありません。



 「うううううううぅ……神様の馬鹿…」



あまりの心細さに、私は無意識に涙を流していました。




 (あ………)



 流れる涙は私の頬を伝い、口の中にも染み込んで来ました。
 涙はしょっぱいと言いますが、本当にその通りでした。
 少し温かくてしょっぱいのです。

その初めての感触を、私はなんとなく楽しく感じて来ました。
 人間との関わりはそれなりにあったのですが、やはり傍で見ているだけなのと自分自身が体験するのは違うものです。
これから私はこの地上で、人間としてのたくさんの体験が出来るわけです。
 地上に落とされる天使なんてそうそういませんから、これはものすごく貴重です。
きっと、こんなチャンスはもう二度とありません。
そう考えると、なんとなく今の状況がそう悪いものではないように思えて来ました。
そうです。
 死なないように気をつければ良いだけの話ではありませんか。
それに、神様だって、私が本当に危なくなればきっと助けて下さる筈です。
 厳しい所もありますが、真はお優しい方なのですから。

 私の顔にはいつの間にか、微笑みが浮かんでいました。
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