天使からの贈り物・恋

恋

９

＊



「本当にうまかった！
こんなにうまいパンは久しぶりに食ったよ。
ありがとうな！」

「いえ、そんな…」

ジュリアンに誉められ、イヴは俯いたままはにかんだ。



「あの……エレスさんは、パンはお嫌いなんですか？」

『えっ？』

イヴの突然の問いかけに、向かいに腰かけていたエレスは思わず驚きの声を発した。



「あ……あぁ、こいつは、朝、馬鹿みたいに食ったから、今は満腹で何も食えないようだ。
エレス、残念だったな。」

「そうでしたか…」

イヴは、どこか寂しそうに俯いた。



「イヴ、あんた、その……見えてないのに、エレスがパンを食べてないことがわかるのか？」

「ええ……動く気配とか物音とかでなんとなく…
それだけじゃありませんよ。
私、その人の容姿もなんとなくわかるんです。」

「えっ！そんなことまで！？」

イヴは、少し微笑んで小さく頷く。



「ジュリアンさんもエレスさんも髪が長いですね。
それと、エレスさんは軽い布のようなもので作られた長いローブを着てらっしゃって背が高くすーっとした感じの方じゃないでしょうか…」

「す、すごい！よくわかるな！」

ジュリアンは目を丸くして、イヴをみつめた。



「あの……お二人のお顔を触らせていただいて良いですか？」

「か、顔を…！？」

エレスはジュリアン以外の者には姿が見えないだけではなく、ジュリアンにも最初は触れることの出来ない幻影のような存在だった。
それが、二人のつきあいが長くなった最近になってやっと実体として感じられるようになったのだ。
それはエレス自身もが驚く程の出来事だった。
そのことを考えれば、イヴにエレスが触れられるはずもなく、それだけではなく触れられないことでイヴに恐怖感を感じさせてしまうことになるだろう。
そう考えたジュリアンは、すかさずエレスをかばう発言をする。



「さ、どうぞ！そんなことならお安い御用だ！
好きなだけ触ってくれ！
だけど、こいつはものすごい神経質なんだ。
病気と言っても良い程の潔癖症だから、触らないほうが良い。
逆上したら何をするかわからないからな。」

そう言ってイヴの傍に顔を近付けるジュリアンの肩を、エレスがそっと押し戻す。