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「イヴ!!」

イヴの姿をみつけたミリアムが全速力で駆け寄り、イヴの身体を力一杯抱き締めた。



「や、やめて、ミリアム!
今更、何の用なの!?
私達、これから…」

その時、低い汽笛が響き、イヴの声は汽笛でかき消された。
ジュリアンは、少しずつ岸を離れて行く船をただ呆然とみつめる。



「初めまして。
ジュリアンさんですね?
僕はミリアムと言います。」

ジュリアンに挨拶をするミリアムの真っ直ぐな瞳を見て、ジュリアンは悟った。
おそらく、エレスの言った通りになるだろうということを…



「じゃあ……とにかく話を聞かせてもらおうか。」

三人は、近くの広場に行き、並んでベンチに腰掛けた。







「そ…そんなこと…!」

ミリアムの話を聞いたイヴは、涙に声を詰まらせた。



「……イヴ、忘れたの?
僕は一生君のことを愛し抜くって、あれだけ何度も言ったのに…」

「で…でも、それは…
私は目が見えなくなったのよ。
だから…」

「だからなんだというんだい?
そんなことで、僕の気持ちが変わるとでも思ってたの?」

「ミリアム……」

そっとイヴの肩を抱いたミリアムの優しさに、イヴの涙は止まらなかった。




ミリアムは、イヴの目を治すため、町を離れたのだった。
腕の良い医者を探し回り、ようやくシェッツァー医師に辿り着いた。
だが、その手術には高額な金がかかるという。
ミリアムは毎日シェッツァー医師の元を訪ね、イヴの手術を懇願した。
しかし、金のないミリアムはシェッツァー医師に取り次いでもらうことさえ出来ず、いつも門前払いだった。
それでも、ミリアムは諦めなかった。
雨の日も風の日も毎日毎日診療所を訪ね、数ヶ月後、ようやくシェッツァー医師に会う事が出来た。
しかし、目の手術を希望する者は多く、一人だけを特別扱いするわけにはいかないと諭されるようにして断られた。
誰もがこれでミリアムも諦めると考えたがそうはならなかった。
数日後、ミリアムはまた診療所を訪れ、勝手に診療所の周りの掃除を始めた。
どれほどやめるように言われてもミリアムはそれを聞き入れず、そのうちに花壇の手入れやちょっとした建物の修繕等もするようになった。
最初はそんなミリアムのことを煙たがっていたシェッツァー医師も、ついに根負けし、ミリアムを正式に診療所で雇うことになった。
そして、その給料の中から少しずつ支払うということで、イヴの手術を承諾してくれたのだという。

 
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