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「じゃ…じゃあ、イヴの父親は……」

「……医者の話じゃ、おそらく、海に落ちた時に心臓の発作のようなもんが起きたんだろうってことだった。
どうにか家族に連絡を取りたかったんだが、聞いたのはトーマスって名前と娘の名前だけだ。
あいつがどこから来たのかもわからない。
ずっと気になってたけど……探しようがなかったんだ…
……すまなかった…本当にすまなかった…」

男は、込み上げる感情に声を忍ばせ、肩を震わせた。



「そんな……父さんが…亡くなってたなんて……」

「イヴ……」

ミリアムは、彼女の涙が止まるまで、イヴの肩を優しく抱き続けた。







「あぁ、これでやっと俺も肩の荷が降りたよ。」

「そうだろうな…
あんたも長い間辛かったな。」

ジュリアンは、イヴの父親のことを教えてくれたジョナスと二人で酒を酌み交わす。



イヴの涙がようやく止まった頃、三人は男に連れられ、イヴの父が眠る墓所を訪ね、花を手向け祈りを捧げた。
それは、イヴにとって悲しい現実だったが、父親が家族を見捨てて出て行ったのではないという真実がわかったことは、やはり切なくも嬉しいことだった。
奇しくも同じ日に、ミリアムのことと父親のこと…癒えることなく血を滲ませていた二つの心の傷が二つ共誤解だったとわかり、イヴは困惑しながらも満ち足りた気持ちを感じていた。

ジュリアンは、イヴとミリアムに気を遣い、二人から離れ、ジョナスと酒場に繰り出した。



「しかし、あの子も気の毒にな…
トーマスもあの世で家族のことを心配してただろうなぁ…」

「そうだろうな…
気にはなっても、自分が死んじまったことすら伝えられないってのはもどかしいだろうな…
でも、今回の巡り合わせは、きっとおやじさんが取り計らってくれたんだろう。
娘のためにおふくろさんと頑張ったのかもしれないぜ。」

「だろうな…親の愛情ってもんはきっと死んでも変わらないんだ。
……ところで、あんたらはなんでこの町に来たんだ?」

「えっ…?ま…まぁ、それは、その…ちょっと気晴らしに遊びに来たような感じだな。」

苦笑いを浮かべたジュリアンは、グラスの酒を一気に飲み干した。
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