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万歩計(さそり座)

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最初は音を上げそうになったウォーキングも、続けているとそれなりに慣れて来る。
ようやく足が痛んだり疲れたりしなくなり始めた頃、私は思い掛けない人に出会った。
それは高三の時のクラスメイトの南君だった。
考えてみれば南君とは十年程も会ってないというのに…髪型や着ている物も変わっているというのに、私には一目でそれが南君だとわかった。



(どうして南君がこんな所に…)

私の視線を感じたかのように、突然、南君が私の方を見た。



「あれっ?」

驚いたような顔をして南君は私の方に歩いて来る。



「涼子ちゃん?……涼子ちゃんだよね?」

「え…あ…うん。」

南君の言葉に私はしどろもどろの返事をした。
私のことを気付いてくれたことに驚いたのはもちろんのこと、昔は、「和泉」って苗字で呼んでたはずなのに…



「ひさしぶりだねぇ…びっくりしたよ!」

「本当…高校卒業してから会ってないもんね…
でも、すぐに南君だってわかったよ。」

「僕もすぐわかった。」

実を言うと、当時の私は南君のことを密かに良いなと思ってた。
でも、南君は受験勉強に必死だったし、告白なんてとても出来なかった。
そして、そのまま卒業の日を迎えてしまい…私の片想いは呆気なく終わった。



南君はこの近くの取引先によく来ているということだった。
私はいつもバスだったから、歩いてなければこうして出会うことはなかったわけだ。



「ねぇ、涼子ちゃん、今、急いでる?」

「ううん、別に…」

「じゃあ、晩御飯、一緒に食べない?」

「え?……うん。」

それは嬉しい誘いだった。
家に帰ってもどうせ一人で食べるだけなのだから。



「実はね、ちょうどお店を探してる所だったんだ。」

南君は、友達のおすすめだというレストランを探していた。
それは、住宅街にひっそりと佇む隠れ家的なお店らしく、南君の友達はたまたまこの近くに来た時にみつけたらしいのだけど、その後、しばらくして来てみると、どうしてもその場所がみつからなかったというのだ。
その友人は元々方向音痴ではあるらしいのだけど、全くお店らしい作りでもないため見逃しやすいということもあり、しかも店名も覚えていないせいでみつけようがないのだとか…
ただ、そこのシチューが最高においしく、接客をしている奥さんは、すごく気さくで感じがよくてどうしてももう一度行きたいという話をしているらしい。 
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