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side 慎太郎

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「わっ!どうしたの?慎太郎さん……」

「……なんでもない。
とにかく、無理することはないからな。
草むしりでも食器洗いでもなんでもいいから、おまえはおまえのやれることをやればそれで良い。
額なんて気にするな。
一生懸命やればそれで良いんだ。」

「うん、わかったよ。」

「じゃあ、仕事を探しがてら町をぶらぶらしてみようか。」



ゆかりさんにあいつらの面倒を見てもらって、俺がとにかくメインになって働こう。
美戎には無理はさせられない。
金がどうこうというより、美戎は仕事に慣れるだけで良い。
少しずつで良いから、人並みのことが出来るようになってくれればそれで良いんだ。



町の中には商店が立ち並び、進んでいくと歓楽街もあって、思った通り、とても大きくて賑やかな町だ。
さらに、町はずれの方には畑が広がってるし、この分なら仕事はいくらでもあるだろう。



「あ、慎太郎さん…見て!温泉だって!」

「温泉…?」

「行ってみようよ。」



確かに、畑の向こうの山裾には小屋みたいなのがあって、そのまわりには白い煙が立ち上ってる。
美戎は温泉だって言ったけど、本当にそうなんだろうか?
駆け出した美戎の後を小走りで追ううちに、なんとなく硫黄のようなにおいが鼻をかすめることに気が付いた。
小屋に着くと、ちょうど身体からほかほかの湯気を放つ老人が出くわした。
美戎の言う通り、小屋はやっぱり温泉だったようだ。



「慎太郎さん、入っていこうよ。」

「でも、一体いくらなんだか…」

「タダだよ。」

「なんで、そんなことがわかるんだ?」

「だって、そこに……」



美戎が指さした先には、確かになにか書いてあったけど、この世界の文字は俺には読めない。
……って、いうか、なんで、こいつ、読めるんだ!?



「おまえ、ここの文字が読めるのか?」

「うん、ゆかりさんにちょっと教えてもらったから読めるようになったよ。」

「へ…へぇ…」



一体、いつの間に…?
何となく、釈然としない想いを胸に抱きながら、俺達は小屋の中に入った。

 
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