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ぎんなん
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「もうこんな季節なんやなぁ…」
まだそれほど涼しいという季節ではないけれど、談笑しながら通り過ぎる女子高生達はもう長袖の制服を着ていた。
「なにをしみじみゆうてんねんな。おっさんくさい。」
「おっさんで悪かったな。
おまえかておばちゃんやろ。」
「あんたと一緒にせんといて。
うちはあんたより2つも若いんや。」
茜音の相変わらずの口の悪さに閉口しながら、俺達は並んで歩いていた。
目的の場所はもう目の前。
「わぁ…なんや、すごいな。」
「……ほんまや。」
時代の流れから、一度は終了してしまった菊人形展が、今年はひさしぶりに開催された。
そのニュースを聞いて、俺達はなんとなくそれを見ようということになり、こうしてやってきたというわけだ。
「見事なもんやってんな。
子供の頃は気色悪いだけやったのに。」
「せやな。
こういうのはきっと大人になってから見るもんやったんや。」
「そういえば、おばあちゃんとかものごっつい楽しみにしとったもんな。」
あたりには、さわやかな菊の香りが立ち込めていた。
当時の街並みを再現したセットの前に、戦国時代の扮装をした人形が、菊を植えて作られた衣裳を身に纏っている。
セットのまわりにも菊やその他の花々が植えられ、なかなかに華やかだ。
なんだろう…見ていると、感動さえ覚える。
俺と茜音は、他愛ない話を交わしながら菊人形を堪能した。
*
「あぁ、今日はほんまにええもん見れたな。」
「ほんまやな。ひさしぶりにぎょうさん歩いて、もう足くたくたや。」
帰り際、俺達は、近くの食堂に入った。
「あ…銀杏。」
「銀杏がどないしたん?」
「いや、ひさしぶりやなぁ、思て。」
「なんで銀杏がひさしぶりやねん。
茶碗蒸しにはつきもんやろ。」
「茶碗蒸し食べるんひさしぶりやもん。」
「あぁ…これやから東京になんか住んどったらあかんねん。」
「なにがあかんねん。」
「なにがあかんかもわからんあたりがあかんねん!」
そう言って、茜音は銀杏を口の中に放り込んだ。
確かにそうかもしれない。
東京の暮らしは俺には合わなかった。
どうにも居心地の悪さを感じて、俺は仕事までやめてこっちに戻って来た。
茜音は、あんたのひとりくらい、うちが食わしたると心強いことを言ってくれた。
もちろん、すぐに仕事を探すつもりだけれど…
「……銀杏、やるわ。」
「なんでや?あんた、銀杏嫌いやったか?」
「いや、そうやないけど…ええもん見せてくれたお礼。」
「なんやしょーもないお礼やな。」
そう言いながら、茜音は口を大きく開けた。
俺はそこに丸い銀杏の実を放り込む。
(こっちにおったら、いつでも食べれるもんな…)
今日は本当に良い日だ。
fin.
まだそれほど涼しいという季節ではないけれど、談笑しながら通り過ぎる女子高生達はもう長袖の制服を着ていた。
「なにをしみじみゆうてんねんな。おっさんくさい。」
「おっさんで悪かったな。
おまえかておばちゃんやろ。」
「あんたと一緒にせんといて。
うちはあんたより2つも若いんや。」
茜音の相変わらずの口の悪さに閉口しながら、俺達は並んで歩いていた。
目的の場所はもう目の前。
「わぁ…なんや、すごいな。」
「……ほんまや。」
時代の流れから、一度は終了してしまった菊人形展が、今年はひさしぶりに開催された。
そのニュースを聞いて、俺達はなんとなくそれを見ようということになり、こうしてやってきたというわけだ。
「見事なもんやってんな。
子供の頃は気色悪いだけやったのに。」
「せやな。
こういうのはきっと大人になってから見るもんやったんや。」
「そういえば、おばあちゃんとかものごっつい楽しみにしとったもんな。」
あたりには、さわやかな菊の香りが立ち込めていた。
当時の街並みを再現したセットの前に、戦国時代の扮装をした人形が、菊を植えて作られた衣裳を身に纏っている。
セットのまわりにも菊やその他の花々が植えられ、なかなかに華やかだ。
なんだろう…見ていると、感動さえ覚える。
俺と茜音は、他愛ない話を交わしながら菊人形を堪能した。
*
「あぁ、今日はほんまにええもん見れたな。」
「ほんまやな。ひさしぶりにぎょうさん歩いて、もう足くたくたや。」
帰り際、俺達は、近くの食堂に入った。
「あ…銀杏。」
「銀杏がどないしたん?」
「いや、ひさしぶりやなぁ、思て。」
「なんで銀杏がひさしぶりやねん。
茶碗蒸しにはつきもんやろ。」
「茶碗蒸し食べるんひさしぶりやもん。」
「あぁ…これやから東京になんか住んどったらあかんねん。」
「なにがあかんねん。」
「なにがあかんかもわからんあたりがあかんねん!」
そう言って、茜音は銀杏を口の中に放り込んだ。
確かにそうかもしれない。
東京の暮らしは俺には合わなかった。
どうにも居心地の悪さを感じて、俺は仕事までやめてこっちに戻って来た。
茜音は、あんたのひとりくらい、うちが食わしたると心強いことを言ってくれた。
もちろん、すぐに仕事を探すつもりだけれど…
「……銀杏、やるわ。」
「なんでや?あんた、銀杏嫌いやったか?」
「いや、そうやないけど…ええもん見せてくれたお礼。」
「なんやしょーもないお礼やな。」
そう言いながら、茜音は口を大きく開けた。
俺はそこに丸い銀杏の実を放り込む。
(こっちにおったら、いつでも食べれるもんな…)
今日は本当に良い日だ。
fin.
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