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弾き初め
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「じゃあ、ノリ…俺はこれで…」
「これでって…まだ早いじゃない。
もう帰るっていうの?」
「悪い…仕事がたまってるんだ。」
「でも……」
「ごめんな!じゃ!」
智君はそう言って片手を上げると、すたすたと歩き去ってしまった。
結婚式まであと二週間。
なにかと忙しいのは私だってそうだけど、でも、こういう時期はラブラブなはずなのに、最近の智君ったらいつも忙しい、忙しいって、食事を済ませたらそそくさと帰って行く。
(智君、なにか隠してる?)
結婚式も近いっていうのに、まさか…とは思いつつも、智君への不信感は募るばかりだった。
*
そして月日は流れ、結婚式の前夜…
私は、智君に呼び出された。
わざわざ呼び出すなんて何だろう?
どこか不思議に思いながらも、私はその誘いに応じた。
「智君…どこに行くの?」
「家だよ…」
「家?」
結婚してから住むマンションはもう借りてあり、一足先に智君がそこに住んでいた。
私の荷物は、結婚式の後に運び込むことになっている。
「さ、入って。」
促されるまま、居間の中に入った私はそこにあるものを見て思わず小さな声を上げた。
「どうしたの、これ?」
「思い切って買ったんだ。中古だけどな…」
そこにあったのは、中古だなんて思えない、綺麗なアップライトピアノだった。
私達はお互いに音楽が好きで、結婚したら、楽器を習おうかなんて話をしていた。
だけど、まさかピアノを買ってしまうなんて…
「知らなかった。一体、いつ買ったの?」
「実は、さっき届いたばかりなんだ。」
「そうなんだ。」
話しながら、智君はピアノの前に座り、その蓋を持ち上げた。
「え?」
驚く私の前で、智君はピアノを弾き始めた。
それは、有名なアーティストの愛をテーマにしたロマンチックな曲…
ピアノの生音をこんな間近で聞くのは初めてだ。
まだたどたどしいものの、とても力強く、丁寧に…その曲は演奏された。
私は驚きと感動で胸がいっぱいになってしまった。
「智君、すごいじゃない!
ピアノなんて弾けたんだ!」
「……本当は結婚式で弾きたかったんだ。
だけど、一生懸命レッスンに通ったけどみんなに聞かせるほどうまくはならなかったし、それに、肝心のピアノが借りれなかったから…それで、ピアノを買った。
どうしても、ノリに聞いてほしかったから…」
「智君…!」
私は思わず智君に抱き付いていた。
そっか…最近、仕事が忙しいって言ってたのは、ピアノを習ってたからだったんだね。
「智君、もう一度弾いてよ。」
智君は頷き、また同じ曲を演奏した。
いつか一緒に弾けるようになる日を思い描きながら、私はその可愛らしい音色に酔いしれた。
「これでって…まだ早いじゃない。
もう帰るっていうの?」
「悪い…仕事がたまってるんだ。」
「でも……」
「ごめんな!じゃ!」
智君はそう言って片手を上げると、すたすたと歩き去ってしまった。
結婚式まであと二週間。
なにかと忙しいのは私だってそうだけど、でも、こういう時期はラブラブなはずなのに、最近の智君ったらいつも忙しい、忙しいって、食事を済ませたらそそくさと帰って行く。
(智君、なにか隠してる?)
結婚式も近いっていうのに、まさか…とは思いつつも、智君への不信感は募るばかりだった。
*
そして月日は流れ、結婚式の前夜…
私は、智君に呼び出された。
わざわざ呼び出すなんて何だろう?
どこか不思議に思いながらも、私はその誘いに応じた。
「智君…どこに行くの?」
「家だよ…」
「家?」
結婚してから住むマンションはもう借りてあり、一足先に智君がそこに住んでいた。
私の荷物は、結婚式の後に運び込むことになっている。
「さ、入って。」
促されるまま、居間の中に入った私はそこにあるものを見て思わず小さな声を上げた。
「どうしたの、これ?」
「思い切って買ったんだ。中古だけどな…」
そこにあったのは、中古だなんて思えない、綺麗なアップライトピアノだった。
私達はお互いに音楽が好きで、結婚したら、楽器を習おうかなんて話をしていた。
だけど、まさかピアノを買ってしまうなんて…
「知らなかった。一体、いつ買ったの?」
「実は、さっき届いたばかりなんだ。」
「そうなんだ。」
話しながら、智君はピアノの前に座り、その蓋を持ち上げた。
「え?」
驚く私の前で、智君はピアノを弾き始めた。
それは、有名なアーティストの愛をテーマにしたロマンチックな曲…
ピアノの生音をこんな間近で聞くのは初めてだ。
まだたどたどしいものの、とても力強く、丁寧に…その曲は演奏された。
私は驚きと感動で胸がいっぱいになってしまった。
「智君、すごいじゃない!
ピアノなんて弾けたんだ!」
「……本当は結婚式で弾きたかったんだ。
だけど、一生懸命レッスンに通ったけどみんなに聞かせるほどうまくはならなかったし、それに、肝心のピアノが借りれなかったから…それで、ピアノを買った。
どうしても、ノリに聞いてほしかったから…」
「智君…!」
私は思わず智君に抱き付いていた。
そっか…最近、仕事が忙しいって言ってたのは、ピアノを習ってたからだったんだね。
「智君、もう一度弾いてよ。」
智君は頷き、また同じ曲を演奏した。
いつか一緒に弾けるようになる日を思い描きながら、私はその可愛らしい音色に酔いしれた。
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