1ページ劇場②

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
152 / 265
五月雨や

しおりを挟む
「あ~あ…今日も洗濯もの干せないな。」

 鉛色の空から、しとしと、しとしと…
このところ、ずっと降り続くいやな雨に僕は思わず愚痴をこぼした。



 「五月雨を集めて早し最上川…」

 新聞を広げながら、シゲさんが呟いた。



 「なに、それ?」

 「ん?知らないの?」

 「僕はシゲさんみたいに博学じゃないからね。」

ちょっとすねたように言ってみる。
だって、シゲさんは本当に物知りで…僕の知らないことばっかり言うんだから。



 「そんなことより、朝ごはん食べようよ。
お腹すいちゃった。」

シゲさんが新聞を畳んで、微笑む。



 「はいはい。」

 僕はそそくさと朝食の準備にとりかかった。



 *



 「いただきます。」

 卓袱台に向い合わせに座って、手を合わせる。
お味噌汁と、焼き魚、だし焼きに、僕の漬けた浅漬け。
そして、欠かせないのがブルーベリーのヨーグルト。
これはシゲさんの大好物だ。
買い忘れたらえらいことになる。



 「シゲさん、今日は定時?」

 「うん、多分な…」

 「今夜は、餃子でも作ろうか?」

 「うん、良いな。
あ、肉多めな。」



 他愛ない…だけどとても安心出来る会話…



「それにしても……」

シゲさんの視線が、窓辺に置いたカーネーションの鉢植えに注がれる。



 「何?」

 「カーネーションって、すぐに枯れるもんじゃないか?」

 「これは特別。」



だって、シゲさんにもらったカーネーションだもの。
「俺には母親はいないから、母親代わりのお前に…」っておかしなことを言って、母の日に買って来てくれたんだ。
すごく嬉しかった。
だから、カーネーションのことを調べて、気を付けて毎日世話をしてるから今もこんなに元気なんだよ。
なんでも知ってるシゲさんも、花のことには疎いんだから。



 「……何笑ってるんだ?」

 「別に……」

 「なんだよ、気持ち悪いな。言えよ。」

 「言わないよ、シゲさんだって五月雨のなんとかのこと、教えてくれなかったじゃない。」

シゲさんは呆れたような顔をして…



「バショウだよ、バショウ!」

 「……なに、それ?」

シゲさんはさらに呆れた顔をして…



「そのくらい勉強しろ!」

そのくらい本当は知ってるよ。
松尾芭蕉だよね。
ちょっとからかってみただけ。
 怒った顔も素敵だね。



 「あ、そろそろ行かないと…」

 柱時計を見て、シゲさんは残ったごはんをかきこんだ。



 「気をつけてね。」

 「あぁ…」



 空は相変わらずの雨…
傘をさして家を出て行くシゲさんを、僕はいつものように見送った。



 僕がずっと見てることを知ってるのか、シゲさんは道の途中でいつも一度振り向く。
 今日もまた振り向いてくれた。



 僕の大好きな優しい笑顔で…

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...