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お星さま
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「船が見つかったのはこのあたりです。」
「そうですか…」
海上タクシーを呼び、私は智樹の友人の村上さんと海に出た。
今までどうしても行けなかった場所…
もう乗り越えたはずだったのに、熱い涙が込み上げた。
私と村上さんは手を合わせ、その場所に花束を投げた。
(智樹…安らかに眠って…)
いつまでも引きずってたら、智樹だって浮かばれない。
今度こそ…私は智樹の死を認める…
祈りながら、私はそう誓った。
ふと、顔を上げた時、私は小さな島の輪郭をみつけた。
「村上さん…あそこに島が…」
「あぁ、そうだね。」
「智樹は泳ぎが得意だったし、あそこくらいまでなら泳げるんじゃないかしら?」
「船が沈んだのは夜だし、汐の流れはあの島とは逆方向だ。
だから、あそこに泳ぎ着くのはとても難しいと思う。
それに、あそこに着いたら、智樹はすぐに君のところへ連絡を入れるんじゃないか?
たとえ……遺体が流れ着いたとしても、すぐにそのことは情報が入るはずだし…」
「そ、そうですよね…」
彼の死を受け止める決心をしたばかりだというのに、私はまだそんなことを…
「……一応、行ってみようか。」
「い、いえ…行かなくて構いません。」
「いや、ちゃんとその目で確認した方が良い。」
村上さんは、私を島へ連れて行った。
港近くの駐在所で、七年前に遺体があがったことはなかったかと聞いてくれたけど、当然、そんなことはなかったという返事だった。
「あんた方、隣の島の人かね?」
「はい、そうです。」
「ここへは海上タクシーで?」
「そうですが、なにか…?」
「実は、頼みたいことがあるんだ。」
そう言って、駐在さんは立ち上がり、小さな男の子を連れて戻って来た。
その子の顔を見た時、私はなんともいいがたい不思議な感覚を覚えた。
初めて会うのに懐かしいような…愛しいような…
「この子は、佐伯智樹君というんだが…」
「智樹…!?」
「この子の名前がどうかしたかい?」
「い、いえ…あ、あの、この子がどうかしたんですか?」
「実は、先日の大雨の後、地盤が緩んでいたせいか、急に崖が崩れ、この子の両親は亡くなってしまったんだ。
この子には身寄りもないし、ずっとここにおいておくわけにもいかないし…
それで、隣の島の町長に相談して、どこか、町の施設にでも連れて行ってもらおうと思うのだが、わしもなかなかここを離れられなくてな。」
少年はせいぜい5~6歳だろうか?
とても心細そうな顔をして、駐在さんの話を聞いていた。
なぜだかその顔が智樹と重なった。
「わ、私ではだめですか?」
「え?だめって、何がだい?」
「私がこの子を引き取って育てたいのですが…」
「あ、淳子あつこさん、何言ってるんだよ!」
なぜそんなことを言ってしまったのかはわからない。
だけど…私はその時本気でそう思ってしまったのだ。
たまたま智樹を忘れようとした時に出会ったのが、この智樹君だったせいかもしれない。
「おねえちゃん…」
智樹君が、突然小さな声を発した。
「何?どうかしたの?」
「あのね…僕のお父さんとお母さんは、お星さまになったんだ。」
「え……?」
「僕ね…お父さんとお母さんの星がどれなのか知ってるんだ。」
「智樹……」
私は智樹の小さな体を抱き締めた。
この子は智樹だ…とてもおかしなことだけど、私には確かにそう思えた。
「智樹君、今夜、お父さんとお母さんのお星さま、教えてくれる?」
「うん、いいよ。」
智樹君は、私の涙を黙って指で拭ってくれた。
(智樹…やっと会えたね…)
心がじわっと熱くなって、私は直感的に感じた。
私はきっとこの子と生きて行くことになるだろうって…
~fin.
「船が見つかったのはこのあたりです。」
「そうですか…」
海上タクシーを呼び、私は智樹の友人の村上さんと海に出た。
今までどうしても行けなかった場所…
もう乗り越えたはずだったのに、熱い涙が込み上げた。
私と村上さんは手を合わせ、その場所に花束を投げた。
(智樹…安らかに眠って…)
いつまでも引きずってたら、智樹だって浮かばれない。
今度こそ…私は智樹の死を認める…
祈りながら、私はそう誓った。
ふと、顔を上げた時、私は小さな島の輪郭をみつけた。
「村上さん…あそこに島が…」
「あぁ、そうだね。」
「智樹は泳ぎが得意だったし、あそこくらいまでなら泳げるんじゃないかしら?」
「船が沈んだのは夜だし、汐の流れはあの島とは逆方向だ。
だから、あそこに泳ぎ着くのはとても難しいと思う。
それに、あそこに着いたら、智樹はすぐに君のところへ連絡を入れるんじゃないか?
たとえ……遺体が流れ着いたとしても、すぐにそのことは情報が入るはずだし…」
「そ、そうですよね…」
彼の死を受け止める決心をしたばかりだというのに、私はまだそんなことを…
「……一応、行ってみようか。」
「い、いえ…行かなくて構いません。」
「いや、ちゃんとその目で確認した方が良い。」
村上さんは、私を島へ連れて行った。
港近くの駐在所で、七年前に遺体があがったことはなかったかと聞いてくれたけど、当然、そんなことはなかったという返事だった。
「あんた方、隣の島の人かね?」
「はい、そうです。」
「ここへは海上タクシーで?」
「そうですが、なにか…?」
「実は、頼みたいことがあるんだ。」
そう言って、駐在さんは立ち上がり、小さな男の子を連れて戻って来た。
その子の顔を見た時、私はなんともいいがたい不思議な感覚を覚えた。
初めて会うのに懐かしいような…愛しいような…
「この子は、佐伯智樹君というんだが…」
「智樹…!?」
「この子の名前がどうかしたかい?」
「い、いえ…あ、あの、この子がどうかしたんですか?」
「実は、先日の大雨の後、地盤が緩んでいたせいか、急に崖が崩れ、この子の両親は亡くなってしまったんだ。
この子には身寄りもないし、ずっとここにおいておくわけにもいかないし…
それで、隣の島の町長に相談して、どこか、町の施設にでも連れて行ってもらおうと思うのだが、わしもなかなかここを離れられなくてな。」
少年はせいぜい5~6歳だろうか?
とても心細そうな顔をして、駐在さんの話を聞いていた。
なぜだかその顔が智樹と重なった。
「わ、私ではだめですか?」
「え?だめって、何がだい?」
「私がこの子を引き取って育てたいのですが…」
「あ、淳子あつこさん、何言ってるんだよ!」
なぜそんなことを言ってしまったのかはわからない。
だけど…私はその時本気でそう思ってしまったのだ。
たまたま智樹を忘れようとした時に出会ったのが、この智樹君だったせいかもしれない。
「おねえちゃん…」
智樹君が、突然小さな声を発した。
「何?どうかしたの?」
「あのね…僕のお父さんとお母さんは、お星さまになったんだ。」
「え……?」
「僕ね…お父さんとお母さんの星がどれなのか知ってるんだ。」
「智樹……」
私は智樹の小さな体を抱き締めた。
この子は智樹だ…とてもおかしなことだけど、私には確かにそう思えた。
「智樹君、今夜、お父さんとお母さんのお星さま、教えてくれる?」
「うん、いいよ。」
智樹君は、私の涙を黙って指で拭ってくれた。
(智樹…やっと会えたね…)
心がじわっと熱くなって、私は直感的に感じた。
私はきっとこの子と生きて行くことになるだろうって…
~fin.
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