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願いの社
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「もし…そこのお嬢さん…」
「は、はい…」
不意にかけられた声に振り返ると、そこには小柄なおばあさんがいた。
「迷われたのですかな?」
「……はい。実はそうなんです。」
「わしは、村へ戻る道を知っています。
今なら、お連れすることも出来ますが…どうなさいますかな?」
この山に入って、私はもう五日もさ迷っていた。
まさかこんなことになるとは思っていなかったから、食べるものはちょっとしか持っていなかったし、水ももうなくなっていた。
幸い、沢をみつけたけど、そんな水を飲んでお腹を壊したらどうしようって一日は我慢して…
でも、喉の渇きには耐えられずに飲んでしまった。
お腹も減ってるし、酷く疲れてもいる…
帰りたい…
だけど……
ここまで来て、帰ることは出来ない。
「私は……帰りません……」
自分の意志を確認するように、ゆっくりと答えた。
「本当に良いんですかな?」
「……はい。」
「このままではあなたは死ぬかもしれない。
あの男にそこまでする価値があるんでしょうかな。」
「えっ!?」
私は心の中を見透かされたような気がして、老婆のしわがれた瞳をじっとみつめた。
そう…私がこの山に来たのは、テルのことをお願いするため。
彼は、今、急な病で生死の淵をさ迷っている。
そんなこと、気に病むことはないのかもしれない。
彼はもう私の彼氏ではないのだから…
彼とは五年の付き合いになる。
私達の仲は順調で、いずれは結婚するものと信じていた。
だけど、その想いはいとも簡単に裏切られた。
部長の娘との縁談が持ち上がり、私はまるで紙屑のように捨てられた。
心が砕け、彼を恨み、涙に暮れた日々…
そんな最中、彼が倒れたことを知った。
友人は笑った。
私を捨てたから天罰が下ったんだって。
でも、私は笑えなかった。
あんなに憎んだはずなのに、彼のことが心配でたまらなかった。
彼の病状は重篤で、生きることは絶望的だと言われている。
だけど、彼はまだ三十代…死ぬにはあまりにも早過ぎる…
そんな時、私の脳裏に浮かんだのは、ある都市伝説だった。
ある山の中にある社に行ってお願いすれば、どんな願いも聞いてもらえるというものだ。
ただ、その社はなかなかたどり着くことが出来ないと…
それだけじゃない。山に向かった者の中には行方知れずになった者もいるとか、そんな噂が実しやかに流れていた。
山の場所はネットですぐにわかった。
もちろん、半信半疑だったけど、私は藁にもすがる想いだったのだ。
山に入ってから、私はその都市伝説に信ぴょう性を感じ始めた。
なぜならば、その山はさほど高くもなければ大きな山でもないのに、入ってすぐに道を見失ってしまったから。
私は方向音痴ではないのに、すぐに方向がわからなくなってしまう。
歩いていても何かがおかしいことをひしひしと感じた。
ここは、普通の山ではない…得体の知れない薄気味の悪さを感じながら、私は社を探して山をさ迷い続けた。
「帰るなら今…
今を逃したら、帰れないかもしれませんよ…」
おばあさんと喋っていたら、なんだか気持ちが揺らいでくる。
「わ…私は…帰りません!」
揺らぐ気持ちを振り払うようにそう言って、私はその場から逃げ出した。
「は、はい…」
不意にかけられた声に振り返ると、そこには小柄なおばあさんがいた。
「迷われたのですかな?」
「……はい。実はそうなんです。」
「わしは、村へ戻る道を知っています。
今なら、お連れすることも出来ますが…どうなさいますかな?」
この山に入って、私はもう五日もさ迷っていた。
まさかこんなことになるとは思っていなかったから、食べるものはちょっとしか持っていなかったし、水ももうなくなっていた。
幸い、沢をみつけたけど、そんな水を飲んでお腹を壊したらどうしようって一日は我慢して…
でも、喉の渇きには耐えられずに飲んでしまった。
お腹も減ってるし、酷く疲れてもいる…
帰りたい…
だけど……
ここまで来て、帰ることは出来ない。
「私は……帰りません……」
自分の意志を確認するように、ゆっくりと答えた。
「本当に良いんですかな?」
「……はい。」
「このままではあなたは死ぬかもしれない。
あの男にそこまでする価値があるんでしょうかな。」
「えっ!?」
私は心の中を見透かされたような気がして、老婆のしわがれた瞳をじっとみつめた。
そう…私がこの山に来たのは、テルのことをお願いするため。
彼は、今、急な病で生死の淵をさ迷っている。
そんなこと、気に病むことはないのかもしれない。
彼はもう私の彼氏ではないのだから…
彼とは五年の付き合いになる。
私達の仲は順調で、いずれは結婚するものと信じていた。
だけど、その想いはいとも簡単に裏切られた。
部長の娘との縁談が持ち上がり、私はまるで紙屑のように捨てられた。
心が砕け、彼を恨み、涙に暮れた日々…
そんな最中、彼が倒れたことを知った。
友人は笑った。
私を捨てたから天罰が下ったんだって。
でも、私は笑えなかった。
あんなに憎んだはずなのに、彼のことが心配でたまらなかった。
彼の病状は重篤で、生きることは絶望的だと言われている。
だけど、彼はまだ三十代…死ぬにはあまりにも早過ぎる…
そんな時、私の脳裏に浮かんだのは、ある都市伝説だった。
ある山の中にある社に行ってお願いすれば、どんな願いも聞いてもらえるというものだ。
ただ、その社はなかなかたどり着くことが出来ないと…
それだけじゃない。山に向かった者の中には行方知れずになった者もいるとか、そんな噂が実しやかに流れていた。
山の場所はネットですぐにわかった。
もちろん、半信半疑だったけど、私は藁にもすがる想いだったのだ。
山に入ってから、私はその都市伝説に信ぴょう性を感じ始めた。
なぜならば、その山はさほど高くもなければ大きな山でもないのに、入ってすぐに道を見失ってしまったから。
私は方向音痴ではないのに、すぐに方向がわからなくなってしまう。
歩いていても何かがおかしいことをひしひしと感じた。
ここは、普通の山ではない…得体の知れない薄気味の悪さを感じながら、私は社を探して山をさ迷い続けた。
「帰るなら今…
今を逃したら、帰れないかもしれませんよ…」
おばあさんと喋っていたら、なんだか気持ちが揺らいでくる。
「わ…私は…帰りません!」
揺らぐ気持ちを振り払うようにそう言って、私はその場から逃げ出した。
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