1ページ劇場②

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
211 / 265
新米

しおりを挟む
「あのね!昨日言ったはずだよね。
この資料は10時までには準備してって!」

 「すみません。ついうっかり…」

 「新米だからって、甘いことばかりも言ってられないよ。
あんたはもうこの会社の社員なんだから。
もっとしっかりしてくれないと!」

 「はい、本当に申し訳ありません!」



 今年の新入りは、どうにも覚えが悪いし、何をするにもペースがのろい。
 悪い子じゃないんだけど…やる気だってあるし、素直だし、怒っても不貞腐れることもないし、むしろ、今時の若い子にしてはとても良い子だと思う。
だけど、どうにも要領が悪いっていうかなんていうか…
怒りたくはないんだけど、上司として見過ごすわけにもいかない。



 (うるさい上司だって思われてるだろうな。)



 *



 「新田さん、良かったらお昼一緒に食べませんか?」

 「えっ!?」

 何を血迷ったのか、件の沢田にお昼に誘われた。
どういうつもりなのかわからないけど、別に断る理由はない。
 月末だし、お金がなくて、それで私におごらせるつもりなのかもしれない。
そういう子はけっこういるから。



 「どこに行く?
 行きつけのお店はあるの?」

 「屋上に行きましょう。」

 「……屋上?え、でも…私……」

いつものようにお店で食べるつもりだったから、私は何も持ってきていない。
ふと見ると、沢田は袋を持っていた。
そうか、きっと、サンドイッチか何か買って来てくれてるんだろう。
そう思い、私は彼の後に続いた。



 (わぁ…)



さすがに屋上は空が近い。
 真っ青に澄み渡る空に、手が届きそうな気がした。



 「ここ、すごく気持ちが良いですよね。
 田舎の空を思い出します。」

 「田舎…?あんたどこの出身だったっけ?」

 「秋田です。」

 「そうなの?全然なまりがないね。」

 「はい、必死ですから。」



 私達は、並んで座った。



 「これ…田舎から送って来た新米なんですよ。
うまいから食べて下さい。」

 沢田が差し出したのはでっかいおにぎりだった。



 「あ、ありがとう。」

 大きなおにぎりにかぶりついた。
うまい…!甘くて粘り気があって…塩加減も抜群だ。



 「どうですか?今年の米は良く出来てるでしょう?」

 「うん、すっごくおいしいよ。」

 「そうですか、良かった。
 俺、飯の炊き方だけは自信があるんです。
あ、これもどうぞ。俺がつけた糠漬けです。」

 沢田は、タッパーに入った漬物を差し出した。



 「あ…おいしい!」

それはお世辞でもなんでもなかった。
 本当に良く浸かってて、いい味してた。



 「あんた…いつこっちに出て来たの?」

 「去年です。」

 「家は継がなくても良いの?」

 「はい、あんちゃんが…いえ、兄がいますから、おまえは好きにしたら良いって言ってくれて…
俺、一度、都会に住んでみたかったんですよね。」

 「……そうなんだ。で、どう?都会は…?」

 沢田は私の質問には答えず、空を見上げて、小さく笑った。


 彼には都会の生活は、なかなかきついんじゃないかなって思った。
 都会は、人と人との関係が希薄だし、忙しない程に時間が早く過ぎるから、きっと田舎で育った沢田にはなにかと大変なはずだ。



でも、それは沢田のせいじゃない。
 都会の方がきっとおかしいんだ。
 私にもそんなことはわかってるけど、すっかりそんな生活に慣れているだけ。



そういえば、人が握ったおにぎりを食べたのは一体何年ぶりだろう。
おにぎりは食べることはあっても、いつもコンビニのものだもの。



 「ねぇ、いつもここでお昼食べてるの?」

 「はい。俺、ここが好きなんです。」

 「そう…気が向いたら、また誘ってよね。」

 「え?本当に良いんですか?」

 「うん、実はね、私ごはんが大好きなんだ。」

 「そうなんですか!前からこの米を新田さんに食べてもらいたくて…緊張したけど、思い切って誘って良かったです!
 新田さん、これからもどうぞよろしくお願いします!」

 無邪気な笑顔に心が和む…
なんだか、この新米君が急に可愛く感じてしまった秋の日だった。


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...