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週刊誌(しし座)

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「湯川さん、もうちょっと免疫つけなきゃだめよ~!」

社員食堂で、ある女子社員が、湯川さんに彼氏とのちょっときわどい話しをしてからかっていた。
顔を赤く染め、恥ずかしそうに俯くあの湯川さんこそが、夜には風俗嬢として働いていると書かれていた人物だ。
あの記事によると、湯川さんは17の時から年齢を偽って風俗店で働き、中学生の頃から援交をしていたと書かれていたが、どう見ても彼女はそんな風には見えなかった。
仕事も真面目だし、少しも派手な所はないし、持っている物も高価なものではない。



(そういえば、あの記事には画像がなかったわ。
あの記事は本当のことなのかしら?)



その日、家に戻った私はもう一度記事を読み直し、湯川さんが働いているという店の場所と名前を確認した。
次の日、私はサングラスをかけた上にさらにマスクをかけて、髪の毛を束ねてそれを隠すようにしてキャップをかぶった。
なんともあやしい格好だが、私だとバレるわけにはいかない。
退社して、すぐにその店の近くに向かい、彼女が来るのを息を潜めて待った。
いかがわしい店の建ち並ぶ一角は、たいそう居心地が悪く、不安な気持ちになった。
そんなことをしてまで確認しに来るなんて、私も相当な馬鹿だと自嘲した。
 記事によると、湯川さんはあるホストに貢いでいるようだけど、そのホストはある客に借金があり、それを返さない事には湯川さんと付き合えないと湯川さんを騙し、金を巻き上げているとのことだった。
しかも、そのホストには本命の彼女がいるとも書いてあった。
どう考えても、そんなどろどろした話と湯川さんはイメージがあわない。



しばらく待ったが、湯川さんは現れず、やっぱりあの記事はでたらめだったのかも…と思いかけた頃、不意に湯川さんが現れた。



(う、嘘っ!本当に来たっ!)

湯川さんは、何の躊躇いもなく店の中に入って行った。
その様子を物影からのぞき見ながら、私は身体が震える想いだった。




(やっぱり、あの週刊誌に書かれていることは真実だったんだわ…)

興奮で、がくがくとしてうまく動かない足をひきずるようにして、私は帰宅した。



そして、それからの数日間…
私はいくつかの記事を検証した。
不倫とされる職場のカップルは、すぐに尻尾を掴めた。
今まで同じ職場で働いていて、どうして気付かなかったのだろうと不思議に思える程だった。 
 
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