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パスケース(いて座)

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「そうだったのか…だから、みんなの態度がおかしかったのか!」

そう言って袴田さんはおかしそうに笑い、バッグの中から定期入れを取り出すと、私にあの「彼」の写真を見せた。



「僕の大切な人…」

そう言う袴田さんの表情はとても穏やかで…



「僕の父さんだよ…」

「へぇ…袴田さんの……えっ?今、なんて!?」

「だから…僕の父親。
もちろん、若い頃の写真だけどね…」

そう言って、切ない笑みを見せた袴田さんは、自分の生い立ちについて話してくれた。
袴田さんのお母さんは、お父さんとのつきあいを両親に反対されていて、二人は駆け落ちして、そして袴田さんが産まれたのだという事だった。
だけど、その直後に、お母さんの両親にみつかってしまい、お母さんは赤ちゃんだった袴田さん共々、無理矢理に家に連れ戻されてしまったということだった。
ほぼ軟禁状態のような暮らしを続けながらも、袴田さんのお母さんは脱出の機会をうかがい、ようやく家を出てお父さんの所に戻ったものの、その時にはお父さんはその家を引き払っており、その後生き別れになったままなのだという。


「母さんは、苦労して僕を女手一つで育ててくれたんだ。
家に戻れば何の苦労もなく暮らせたのに、母さんはいつか父さんと出会えることを信じて家には戻らなかったし、再婚もしなかった。
母さんは今も一途に父さんのことを想ってるんだ。
すごい純愛でしょう?
僕はなんとか父さんを探し出して、母さんに会わせてあげたいし、それまでは結婚もしないって決めてるんだ。
だけど、全くといっていいほど手掛かりがなくてね…
この写真と母さんの記憶だけが手掛かりなんだ。」

「そんなことが…だから、袴田さんは…」

まるで、ドラマのような袴田さんの話に私は驚くと同時に感動した。
やっぱり、袴田さんは私が思ってた通りの…いや、それ以上の人だ!
それに、男の人が好きではないということがわかったのも嬉しい!



「袴田さん!私達にも、ぜひお手伝いをさせて下さい!」







次の日から袴田会では、お父さん探しの活動が始まった。
私達に出来ることなんて、たかが知れてるかもしれないけど、私達は全力で頑張ることを誓った。
もちろん、袴田さんに対する誤解は綺麗に釈明し、田村君には袴田さんに土下座をして謝らせ、今回の罰として、これからはますますこき使ってやることに決めた。 
 
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