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缶詰(やぎ座)

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(仕方ない…裕二に来てもらおう…)

俺は、震える手で裕二の携帯に電話をかけた。



(……ん?)

聞こえて来たのはツーツーという音…
話し中か…
仕方なくメールを打つ。
しかし、ピピッというおかしな音がしてメールが送信出来ない。



(おかしいなぁ…電波は悪くないのに…どうして……あぁっ!!)



俺は思い出した。
今月は、残高不足で引き落としが出来なくて、自分で支払いにいかなきゃならなかったということを。
忙しくて忘れているうちに、その期日が過ぎて携帯が停まっているようだ。



(なんてこった…
こんなんじゃ、薬も買いに行けないし…
その上、電話も使えないなんて…)

俺は無人島に一人取り残されたような気分だった。
激しく落胆したせいか、急に睡魔に襲われ、俺はそのまま眠りに落ちた。







(……あれ?)

ほんの少し眠ったような気がしてたのに、時計を見たらもう夕方近くになっていた。
眠ったお陰で少し熱が下がったような気がしたが、起き上がるとやはりまだ足元がふらふらとして気分が悪くなった。



(だめだ…やっぱりこんなんじゃコンビニにも行けない…)

とりあえず、熱をさげないといけないと思い、俺は水道の水を飲んだ。
台所へいくだけでも大変だったが、水を飲むとほんの少し気分が良くなったような気もした。
ついでに冷蔵庫をのぞくと、中にあるのは記憶通りにビールばかり。
あとはひからびた漬物と、賞味期限の切れた卵が二つあるだけだった。
卵は、あたると酷いと言う。
賞味期限が切れて十日っていうのは、食べても良い物やらいけないものやら判断に苦しみ、これ以上、具合が悪くなっても困るから、やっぱりやめておくことにした。
食欲はないが、やっぱり何か食べとかないと体力が回復しないと考えた時、昨夜、弁当と一緒にポテチを買ったことを思い出した。



(これだけでも買っといて良かった…)

熱のせいか、味もよくわからない数枚のポテチを口に運んでは、それを流しこむように水を飲み…
俺はどうにかその日をやり過ごした。 
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