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9、十字石(中心的な存在)スタウロライト

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 「ジネット!!血…血が…!」


ジネットは怪我をした足を見るや、顔色を失い自分の部屋に逃げるように走り去った。



 「ジネット!
 大丈夫なの?
ジネット!
お願いだからここを開けてちょうだい。
 傷の手当てをしなければ…!」

しかし、ジネットは扉を開けようとしないどころか、返事すらしなかった。



 (……ジネット…)



 「ジネット…薬草をここに置いておくわね…」

 今は、そっとしておいた方が良いのかもしれない…
マリアはそう思い、その場を離れた。



 夜になり、食事を食べないかと声をかけたが、やはりジネットからの返事はなかった。
 扉は固く閉ざされたまま、薬草も使われてはいなかった。



やがて、次の日の朝が来た。
 食卓の上にすぐに食べられるようにとマリアが用意しておいた食事にもまったく手をつけられてはいなかった。



 (……無理もないわね…
とても辛いことがあったのだものね…)



ジネットがヴェールに淡い恋心を抱いていることは、マリアも薄々感じていた。
でも、ジネットにはその思いを伝えられない理由があることも感じていた。
マリアは今までずっと「他人の心の中には自分から踏み込まないこと」が最善の策だと信じて来た。
 話したくなればきっとその人は自分から話す。
だから、それを待つことが相手にとっても良いことなのだと考えていた。
だが、今回は違った…
なぜ、もっと早くにジネットに話を聞かなかったのだろう…
どうして彼女の心の負担を軽くしてやらなかったのだろう…

マリアの胸には、そんな後悔の念がこみあげていた。



 (私にも何か力になれたことがあったかもしれないのに……)

マリアは、幸せの水をグラスに注いで飲み干した…



(…そうだわ!
 今からだって遅くない…!!)

マリアは立ち上がり、ジネットの部屋に向かった。



 「ジネット!ここを開けてちょうだい!」 
 
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