1ページ劇場⑤

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
113 / 497
鬼の撹乱

しおりを挟む
「ごめんね。迷惑かけて。」

「気にすることないよ。
有休まだけっこうあるし。」

布団に横になったままの妻は、小さく頷いた。



いつも元気な妻が、ある日、熱を出したのだ。
妻は、子供と一緒に暖かい子供部屋で寝ていたというのに、風邪をひいてしまうとは皮肉なものだ。
夜中から具合が悪かったらしいが、僕を起こしてはいけないと遠慮して起こさなかったらしい。
僕は、この日、会社を休むことにした。



「じゃあ、真人を連れて行ってくるよ。
すぐ帰ってくるからな。」

幸い、息子は元気だったので、いつも妻がしているように、真人を自転車の後ろに乗せて、幼稚園に向かった。



「パパは走るの遅いね。」

「そうか?」

「うん、ママはもっと早いよ。」

まぁ、このあたりはあまり交通量は多くはないが、それでも何かあったら大変だ。
妻に、少し注意しておこう。



幼稚園に息子を送り届けてから、ふと思い立って、スーパーに立ち寄った。



妻はまだ熱があるみたいだから、あまり食欲はないだろう。
何か消化の良いものと、食べやすいもの。



(あ、これ、良いな。)



冷凍の鍋焼きうどんをカゴに入れた。
鍋焼きうどんなら、消化は良いし、火にかけるだけだから、僕にも作れる。
あとは、アイスクリームやヨーグルト、フルーツのゼリーやプリン等をたくさん買った。
それらは、僕が食べたかったということもある。



「ただいま。熱はどうだい?」

「薬のおかげでちょっと下がったみたい。
まーくん、愚図ったりしなかった?」

「あぁ、全然。
機嫌良く行ってくれたよ。」

僕が送って行くのは初めてだったから、妻は心配していたようだ。
僕には厳しいが、子供のことには、本当に神経を使っている。
過保護にならなけりゃ良いが…
そんなことをぼんやりと考えながら、僕は鍋焼きうどんを火にかけた。
しばらくすると、とても美味しそうなにおいがしてきた。



「鍋焼きうどん、作ったんだけど、ちょっとでも良いから、食べといたら?
起きれるか?」

「うん、大丈夫。ありがとう。」

妻はゆっくりと体を起こし、リビングに向かった。
僕の分も作っておいたので、ふたりで向かい合わせに座った。
湯気の立つ鍋焼きうどんを、妻はゆっくりとすする。



「富士山のパワーでも」
「富士山パワーを」



僕達は、同時に話しかけ、そして同時に止まった。



「やっぱり、あなたもそう思ったのね。」

「え?」

「富士山パワーを毎日浴びてるから、風邪も悪化しないのよね。きっと明日には元気になるわ。」

「う、うん、そうだな。」



実は、僕は反対のことを考えていた。
富士山パワーを浴びてても、ダウンすることはあるんだなって言おうとしたのだけれど、やっぱり言わなくて良かった。



妻の言った通り、夜には熱はすっかり下がり、次の日には完全に回復して、僕は、アイスやゼリーを買いすぎだと叱られたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

処理中です...