318 / 497
愛する人がいるから
1
しおりを挟む
「最近は日の暮れが早くなったな。」
「そりゃそうですよ。もう長月なんですから。
だから、提灯を持って行こうと申しましたのに。」
「確かに。そなたの言うことが正しかったな。
転ばぬように気を付けて、早く帰ろう。」
僕達は慎重に、だが、急ぎ足で山道を下った。
今日は、隣の村まで、仕立てものを運びがてら、薬を買いに行ったんだ。
妻の母は元々体があまり丈夫ではないらしく、夏の疲れが出たのか最近ずっと具合が悪かったから。
僕達の住む村には医者はいない。
薬屋もない。
便利な隣の村に移り住めば良いのに、妻もその母も、慣れ親しんだこの村を離れたくないと言う。
「お母さん、ただいま。」
今何時かはわからないが、あたりはすでに真っ暗だ。
「おかえり。大変だったね。」
「お母さん、寝てなきゃだめじゃない。」
「昼間は寝てたから大丈夫だよ。
お腹がすいただろう。」
「あとは私がするから、お母さんは座ってて。」
狭いこのあばら家に、三人で暮らしている。
僕は毎日畑仕事をし、妻は針仕事を、そして、お母さんが家の事をする。
貧しいながらも穏やかな日々をすごしている。
それも、妻やお母さんのおかげだ。
僕は、本当はこの世界の者ではない。
2023年の日本に僕は生きていた。
ある日、いつものように会社の屋上でタバコを吸っていたら、急に若い男が現れた。
何やら様子がおかしい。
痩せて、酷く暗い顔をしていた。
顔色も良くないし、目の焦点が合ってない。
男はゆっくりと屋上を横切り、僕の傍に来たかと思うと、柵を乗り越えようとした。
「な、何やってるんだ!危ないぞ!」
「ほっといてくれ!俺は死ぬんだ!」
「馬鹿なことを言うな!」
僕はなんとか男を取り押さえようとした。
男は僕を振り切ろうとする。
ものすごい力だ。
「あ、ああーーーっ!」
揉み合っているうちに、僕は柵の外に放り出された。
何も考える暇はなかった。
僕の体は固い地面に向かって落ちていく。
(……ん?)
僕は、草むらに寝ていた。
起き上がると、あたりは草原だった。
僕は、あの時、屋上から落ちたはず。
20階超えのビルだ。
生きているはずは無い。
じゃあ、ここはあの世なのか!?
しばらく歩いたが、誰にも会わなかった。
さらに歩くと、畑で働く女性をみかけた。
僕は躊躇いながらも声をかけた。
「すみません。ここはどこですか?」
女性は僕を見て、酷く驚いていた。
その時、その理由に気が付いた。
彼女は着物を着ている。
僕はスーツだ。
「こちらへ!」
「は、はい。」
僕は彼女について、一軒の家に着いた。
「お母さん!お父さんの着物を!」
「えっ!?」
僕は、差し出された古びた着物に着替えた。
どうやらあの世ではなさそうだった。
その家で厄介になってるうちに、僕は気が付いた。
おそらく、過去にタイムスリップしてしまったのだと。
受け入れ難い話だったが、そう思わなければ辻褄があわない。
帰る方法が見つからず、苛立つ僕に、母子は優しくしてくれた。
そのおかげで僕も落ち着きを取り戻すことが出来た。
半年後、僕ははると祝言をあげた。
もちろん、僕が未来から来たことは話していない。
元の世界に帰れるかどうかはわからないが、その機会が来るまで、僕はこの世界で生きることを決めた。
「夕餉が出来ましたよ。」
野菜くずを煮たおかずと梅干しに、雑穀。
質素な食事だ。
ここに来て、タバコもやめざるを得なかった。
慣れない畑仕事をしているからか、体調も良く体力も着いたような気がする。
この不便な生活も、慣れてくるとそう悪いものではない。
そして、なによりここにははるがいる。
僕はこの時代に骨を埋める覚悟を決めた。
「そりゃそうですよ。もう長月なんですから。
だから、提灯を持って行こうと申しましたのに。」
「確かに。そなたの言うことが正しかったな。
転ばぬように気を付けて、早く帰ろう。」
僕達は慎重に、だが、急ぎ足で山道を下った。
今日は、隣の村まで、仕立てものを運びがてら、薬を買いに行ったんだ。
妻の母は元々体があまり丈夫ではないらしく、夏の疲れが出たのか最近ずっと具合が悪かったから。
僕達の住む村には医者はいない。
薬屋もない。
便利な隣の村に移り住めば良いのに、妻もその母も、慣れ親しんだこの村を離れたくないと言う。
「お母さん、ただいま。」
今何時かはわからないが、あたりはすでに真っ暗だ。
「おかえり。大変だったね。」
「お母さん、寝てなきゃだめじゃない。」
「昼間は寝てたから大丈夫だよ。
お腹がすいただろう。」
「あとは私がするから、お母さんは座ってて。」
狭いこのあばら家に、三人で暮らしている。
僕は毎日畑仕事をし、妻は針仕事を、そして、お母さんが家の事をする。
貧しいながらも穏やかな日々をすごしている。
それも、妻やお母さんのおかげだ。
僕は、本当はこの世界の者ではない。
2023年の日本に僕は生きていた。
ある日、いつものように会社の屋上でタバコを吸っていたら、急に若い男が現れた。
何やら様子がおかしい。
痩せて、酷く暗い顔をしていた。
顔色も良くないし、目の焦点が合ってない。
男はゆっくりと屋上を横切り、僕の傍に来たかと思うと、柵を乗り越えようとした。
「な、何やってるんだ!危ないぞ!」
「ほっといてくれ!俺は死ぬんだ!」
「馬鹿なことを言うな!」
僕はなんとか男を取り押さえようとした。
男は僕を振り切ろうとする。
ものすごい力だ。
「あ、ああーーーっ!」
揉み合っているうちに、僕は柵の外に放り出された。
何も考える暇はなかった。
僕の体は固い地面に向かって落ちていく。
(……ん?)
僕は、草むらに寝ていた。
起き上がると、あたりは草原だった。
僕は、あの時、屋上から落ちたはず。
20階超えのビルだ。
生きているはずは無い。
じゃあ、ここはあの世なのか!?
しばらく歩いたが、誰にも会わなかった。
さらに歩くと、畑で働く女性をみかけた。
僕は躊躇いながらも声をかけた。
「すみません。ここはどこですか?」
女性は僕を見て、酷く驚いていた。
その時、その理由に気が付いた。
彼女は着物を着ている。
僕はスーツだ。
「こちらへ!」
「は、はい。」
僕は彼女について、一軒の家に着いた。
「お母さん!お父さんの着物を!」
「えっ!?」
僕は、差し出された古びた着物に着替えた。
どうやらあの世ではなさそうだった。
その家で厄介になってるうちに、僕は気が付いた。
おそらく、過去にタイムスリップしてしまったのだと。
受け入れ難い話だったが、そう思わなければ辻褄があわない。
帰る方法が見つからず、苛立つ僕に、母子は優しくしてくれた。
そのおかげで僕も落ち着きを取り戻すことが出来た。
半年後、僕ははると祝言をあげた。
もちろん、僕が未来から来たことは話していない。
元の世界に帰れるかどうかはわからないが、その機会が来るまで、僕はこの世界で生きることを決めた。
「夕餉が出来ましたよ。」
野菜くずを煮たおかずと梅干しに、雑穀。
質素な食事だ。
ここに来て、タバコもやめざるを得なかった。
慣れない畑仕事をしているからか、体調も良く体力も着いたような気がする。
この不便な生活も、慣れてくるとそう悪いものではない。
そして、なによりここにははるがいる。
僕はこの時代に骨を埋める覚悟を決めた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる