14 / 239
ごはんがおいしい季節ですね
1
しおりを挟む
*
(藤原の馬鹿野郎!)
最悪な気分だった。
三ヶ月前に入ったばかりの藤原は、良い大学を出ているせいか、プライドばかり高くて全く使い物にならない。
注意をすれば言い訳ばかり。
そのうち、やたらと反抗的になって来て、ついに今日は辞めると言い出した。
金のためだけに働くのはいやだとか、楽しめない仕事はしたくないとか偉そうなことを言って……結局は、女の上司が気に入らないってことなんだ。
(この三ヶ月…私はあいつのためにどれほど頑張ってきた事か!)
藤原の顔を思い出す度に怒りが込み上げ、苛々した気分で帰路に着いた。
(あれっ?)
家に近付くと、部屋に灯りが点いてるのか見えた。
「おかえり~」
私が鍵を開ける前に、扉を開けてくれたのは耕介だった。
耕介は、いつもこんな風に足音だけで私を認識する。
「……どうしたの?」
「うん、最近会ってなかったから。」
最近は、藤原のことで忙しく、気持ちにも余裕がなかったから耕介とは会ってなかった。
最初のうちは会って藤原の愚痴を言ったりしてたけど、最近はどうにも気が晴れず、食事の誘いも、部屋に行っていいかとの質問にも全てNOと返していた。
勝手に来たことにはちょっと苛ついたけど、扉を開けた途端に漂うカレーのにおいがその感情をほぐした。
「……カレーのにおいがする。」
「僕の手作り!」
「手作りって…あんた、そんなもの作れないでしょ。」
「カレーくらい作れるよ!
箱に作り方書いてあるから…」
本当だろうかと考えているうちに、耕介は私を席に着かせ手作りのカレーを差し出した。
(で、でかっ!)
一口ではとても入らないサイズに切られた野菜を見て、私は彼の言葉をようやく信じた。
「見て!これ、新米だよ!
つやつやですっごく美味しそうじゃない?」
「う、うん。」
カレーじゃなくてごはんかよ!と、ツッコミたくなるのを堪え、私はカレーを頬張った。
特別おいしいって程ではないけど、野菜の大きさをのぞけば十分及第点の味だった。
「やっぱり、こしひかりはおいしいね!」
耕介は、またカレーじゃなくてごはんを誉めた。
いつもどこかズレてて……でも、それがなんだかとても和む耕介。
「気にするな。
他人は急に変わらない。」
「……何、それ。」
「僕が作った標語。」
「変なの……」
口ではそんなことを言ったけど、やっぱり耕介は私が藤原の事で悩んでることを気にしてくれてたんだって……ほんの少し胸が熱くなった。
「……カレーはいまいちだけど、ごはんがおいしいからおかわり!」
「うん、新米だもんね!」
耕介はにっこり笑顔で空になったお皿を受け取った。
素直さ全開の耕介スマイルに、私の苛々はいつの間にかどこかに吹き飛んでいた。
(藤原の馬鹿野郎!)
最悪な気分だった。
三ヶ月前に入ったばかりの藤原は、良い大学を出ているせいか、プライドばかり高くて全く使い物にならない。
注意をすれば言い訳ばかり。
そのうち、やたらと反抗的になって来て、ついに今日は辞めると言い出した。
金のためだけに働くのはいやだとか、楽しめない仕事はしたくないとか偉そうなことを言って……結局は、女の上司が気に入らないってことなんだ。
(この三ヶ月…私はあいつのためにどれほど頑張ってきた事か!)
藤原の顔を思い出す度に怒りが込み上げ、苛々した気分で帰路に着いた。
(あれっ?)
家に近付くと、部屋に灯りが点いてるのか見えた。
「おかえり~」
私が鍵を開ける前に、扉を開けてくれたのは耕介だった。
耕介は、いつもこんな風に足音だけで私を認識する。
「……どうしたの?」
「うん、最近会ってなかったから。」
最近は、藤原のことで忙しく、気持ちにも余裕がなかったから耕介とは会ってなかった。
最初のうちは会って藤原の愚痴を言ったりしてたけど、最近はどうにも気が晴れず、食事の誘いも、部屋に行っていいかとの質問にも全てNOと返していた。
勝手に来たことにはちょっと苛ついたけど、扉を開けた途端に漂うカレーのにおいがその感情をほぐした。
「……カレーのにおいがする。」
「僕の手作り!」
「手作りって…あんた、そんなもの作れないでしょ。」
「カレーくらい作れるよ!
箱に作り方書いてあるから…」
本当だろうかと考えているうちに、耕介は私を席に着かせ手作りのカレーを差し出した。
(で、でかっ!)
一口ではとても入らないサイズに切られた野菜を見て、私は彼の言葉をようやく信じた。
「見て!これ、新米だよ!
つやつやですっごく美味しそうじゃない?」
「う、うん。」
カレーじゃなくてごはんかよ!と、ツッコミたくなるのを堪え、私はカレーを頬張った。
特別おいしいって程ではないけど、野菜の大きさをのぞけば十分及第点の味だった。
「やっぱり、こしひかりはおいしいね!」
耕介は、またカレーじゃなくてごはんを誉めた。
いつもどこかズレてて……でも、それがなんだかとても和む耕介。
「気にするな。
他人は急に変わらない。」
「……何、それ。」
「僕が作った標語。」
「変なの……」
口ではそんなことを言ったけど、やっぱり耕介は私が藤原の事で悩んでることを気にしてくれてたんだって……ほんの少し胸が熱くなった。
「……カレーはいまいちだけど、ごはんがおいしいからおかわり!」
「うん、新米だもんね!」
耕介はにっこり笑顔で空になったお皿を受け取った。
素直さ全開の耕介スマイルに、私の苛々はいつの間にかどこかに吹き飛んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
皇后マルティナの復讐が幕を開ける時[完]
風龍佳乃
恋愛
マルティナには初恋の人がいたが
王命により皇太子の元に嫁ぎ
無能と言われた夫を支えていた
ある日突然
皇帝になった夫が自分の元婚約者令嬢を
第2夫人迎えたのだった
マルティナは初恋の人である
第2皇子であった彼を新皇帝にするべく
動き出したのだった
マルティナは時間をかけながら
じっくりと王家を牛耳り
自分を蔑ろにした夫に三行半を突き付け
理想の人生を作り上げていく
あの素晴らしい愛をもう一度
仏白目
恋愛
伯爵夫人セレス・クリスティアーノは
33歳、愛する夫ジャレッド・クリスティアーノ伯爵との間には、可愛い子供が2人いる。
家同士のつながりで婚約した2人だが
婚約期間にはお互いに惹かれあい
好きだ!
私も大好き〜!
僕はもっと大好きだ!
私だって〜!
と人前でいちゃつく姿は有名であった
そんな情熱をもち結婚した2人は子宝にもめぐまれ爵位も継承し順風満帆であった
はず・・・
このお話は、作者の自分勝手な世界観でのフィクションです。
あしからず!
【完結】瑠璃色の薬草師
シマセイ
恋愛
瑠璃色の瞳を持つ公爵夫人アリアドネは、信じていた夫と親友の裏切りによって全てを奪われ、雨の夜に屋敷を追放される。
絶望の淵で彼女が見出したのは、忘れかけていた薬草への深い知識と、薬師としての秘めたる才能だった。
持ち前の気丈さと聡明さで困難を乗り越え、新たな街で薬草師として人々の信頼を得ていくアリアドネ。
しかし、胸に刻まれた裏切りの傷と復讐の誓いは消えない。
これは、偽りの愛に裁きを下し、真実の幸福と自らの手で築き上げる未来を掴むため、一人の女性が力強く再生していく物語。
退屈令嬢のフィクサーな日々
ユウキ
恋愛
完璧と評される公爵令嬢のエレノアは、順風満帆な学園生活を送っていたのだが、自身の婚約者がどこぞの女生徒に夢中で有るなどと、宜しくない噂話を耳にする。
直接関わりがなければと放置していたのだが、ある日件の女生徒と遭遇することになる。
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる