1ページ劇場①

ルカ(聖夜月ルカ)

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怖い

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「こんにちは!
昨日はどうも…!」

「あ…あぁ、こんにちは!」



爽やかで、人懐っこい笑顔…
どこか気難しそうな印象なのに、笑うと途端に少年みたいな顔に変わる。
物腰が柔らかで、落ちついていて、清潔感があって……



彼が初めてここに来た時からずっと気になっていた。
そして、それからも彼は度々この店に来てくれて、会う度にちょっとした話を重ね、もしかしたら、彼も私に好意を抱いてくれてるんじゃないか…そんな甘い期待をするようになって……



でも、そんなものは昨日一気に吹き飛んでしまった。
駅の反対側に、ドッグランのある広い公園があると聞いた私は、休みだった昨日、愛犬モコを連れて公園を探しに出掛けた。
この町に引っ越して来てまだ日も浅く、私がうろうろするのは勤めてる花屋や家のある近辺ばかりで、こちら側にはほとんど来たことがなかった。
同じ駅なのに、私が住んでいる方とはまるで違い、こちら側は静かで人通りも少ない。
公園はどこだろうと、知人に聞いた話を思い出しながら歩いている時、私は偶然にもあの人に出会った。
いつものスーツ姿とは違ってラフな普段着だったから、きっと彼はこのあたりに住んでるんだと直感した。



「こ、こんにちは!」

「あ…あぁ……」

「もしかして、このあたりに……」

「ご、ごめん、急いでるんだ。」



彼は酷く迷惑そうな顔をして、その場から走り去った。
いつもとはあまりに違う冷たい態度……



公園を探す気力もなくして家に引き返し……そして、私は悟った。
彼はきっと結婚してるんだと。
いつも鉢植えを買ってくれたのは、奥さんのためだったんだろう。
私は勝手に自惚れていたことに気付いて、その晩は朝まで泣き明かした。



「……目、赤いけどどうかしたの?」

「い、いえ、なんでもありません。」



なのに、今日の彼はまたいつもと同じ優しい態度で……



「そう?なら良いんだけど……
あ、この前のあれ、元気に育ってるよ!
秋には実がなるんだよね?
楽しみだなぁ……
今日はまた観葉植物がほしいんだけど、どれが良いかな?
育てやすくて、花とか咲くのはある?」

なぜだろう?
昨日の彼とはまるで別人みたい。
笑顔で話す彼を見ていたら、なんだか無性に苛々して来て、私は咄嗟に毒を吐いた。



「植物は奥様がお好きなんですか?」

「奥様?いやだなぁ…僕はまだ独身だよ。」

嘘ばっかり…
私は、彼を冷めた目でみつめながら、口端を小さく上向けた。



「……信じてないの?」

彼の顔から笑顔が消え、私の手首を握りしめ、彼はずんずんと歩き始めた。


 
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