1ページ劇場①

ルカ(聖夜月ルカ)

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家探し

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(やっぱり……ここはやばい物件だったのかも……)



 俺は横たわったまま、泣きそうな気分になっていた。


 母親が再婚し、なんとなく家に居づらくなって来た俺は、以前から考えながらなかなか実行できなかった一人暮らしを始めることにした。
 三十路を目前にしてようやくの一人暮らし…
しかも、いまだにバイト、さらに家事なんてほとんどしたことのない俺が、本当に一人でやっていけるんだろうか?
あれこれ考えれば考える程、不安は広がっていくばかり。
しかも、俺は人一倍寂しがり屋だ。
 一人の生活があまりに不安で、俺は風太郎を連れて行くことにした。


 家を借りるには、それ相応のお金がかかる。
 貯金なんてほとんどなかったから、ばあちゃんに無理言って貸してもらった。
だけど、その金額では、思い描いていたペット可のマンションなんてとても無理だということがわかった。
 今まで家を借りて住むってことがなかったから、家賃や敷金の相場さえ俺は全くわかってなかったんだ。


 「えっと…それじゃあ、無理ってことですか?」

 「いやぁ…無理っていうか…あるにはあるんですが、ちょっと…その古いっていうのか…」

なんだかとても歯切れの悪い不動産屋の言葉…



「古いくらい、大丈夫です。
 駅からは何分ですか?」

 「約10分ですね。」

 「良いじゃないですか。
じゃあ、そこを見せて下さい。」

その家は、なんと、まさかの一軒家。
 小さい部屋が四部屋もあるのに、この近くのワンルームマンションよりずっと安い。
だけど、確かに古い。
お風呂にはシャワーがなく、トイレも和式だ。


 (でも、猫も飼って良いってことだし、なんせ安いもんなぁ…他にはこんな安いとこなさそうだし…)


 俺はそこを借りることに決めた。
 日当たりも良いし、周りは静かだし、狭いとはいえ庭もあって、けっこう良かったかなって思ってたんだけど、しばらくすると俺の身体に異変が現れた。
 今まで感じたことのないような眩暈のようなものを感じたり、なんだかどうも体調が良くない。
しかも、夜遅くに天井裏をミシミシと誰かが歩いてるような音を聞いた。


 (ま、まさか…ここって所謂、事故物件って奴なんじゃ……!?)


そう思うと、俺の体調はますます悪化していった。
 夜は怖くて眠れないし、俺の身体はどんどん弱って行く…
ある日、バイトにも行けなくなった俺を、同僚の森が見舞いに来てくれた。



 「おーい、本田、入るぞー!」

 「森…ここだ……」

 森は部屋に入るなり、あたりを見渡した。



 「こりゃあ、ひどいな。」

 「ひ、ひどいって…森…
もしかして、おまえ、見えるタイプなのか?」

 「見える?なにが?」

 森は、その場に座りこむ。


 「だから…ほら…その……」

 「あ、良いものがあった。」

そういうと、森は風太郎のおもちゃのボールを手に取り、部屋の隅に置いて手を離した。
ボールは風もないのにころころと転がって……


「や、やっぱりここには誰かが…」

 「やっぱり傾いてるな。」

 「……え?」

 「本田、おまえ、平衡感覚やられてないか?
 眩暈とか……」

 「え…!?」

 何と、この家は、かなり傾いてるということだった。
つまり、俺はその傾きのせいで具合が悪かったということで……


「俺、大工仕事は得意なんだ。
ま、そんな本格的なことは出来ないけど、今よりはましにしてやるよ。」

 「えっ!マジか!」

 「その代わり……」


それからしばらくして、森が引っ越して来た。
なんでも、家賃を滞納してアパートを追い出されたとのこと。

でも、森のおかげで家の傾きはずいぶんマシになり、俺の体調不良も嘘のようによくなった。
しかも、天井板のはずれた所があり、ミシミシ言ってたのは、風太郎が天井裏を歩いてただけだってこともわかった。


 「来月は、台所をちょっといじらないか?」

 「そうだな!」

 最近の俺達は、家のあちこちをリフォームすることにハマっている。
 俺と森と風太郎の生活は、けっこう楽しいものになっている。

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