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「だってエリーは「王家の鳥籠」から外へ出るんだろう?
なら僕のところへおいで」

「宵闇の君」は、その紺碧の海のような瞳をいたずらっぽく煌めかせて、わたくしに言ったのだった。

(まるで一幅の絵画のようだわ…)

あまりの魅惑的な言葉セリフと表情に夢見るような心地になるけれど、しかし何を言われたのかは、さっぱり理解できない。

(おいで…おいでとは?どこに?わたくしが自由な立場になったから、アプロウズ家に遊びにおいでとか…。
それとも何かいま社交界で流行りの比喩とか…かしら?)

「オリバー!お前いきなり何言って…!」

オリバー様は、怒鳴るお兄様には目もくれず席を立つと、優雅な足取りで私の元にいらして、

エリザベス嬢・・・・・・、正式な婚約の申し出プロポーズは改めて。
きちんと公爵閣下のお許しを得てからにするよ。でも、エリーに気持ちは伝えておかないとね」

そうして、わたくしの手の甲にキスをした。

(プ、プ、プロポーズ!?)

「エリーを愛称で呼ぶな!そんなすぐに父から許しなど出ない!」

「ほら、どうせそうして過保護な君が囲い込むだろうと、今朝は急いで…」

「少しは段階を踏め!」

(どどど動揺してはだめよ、わたくし公爵令嬢ですもの!)

幼い頃から「将来の王太子妃」だったわたくしは、恋をすることも、殿方から甘い言葉を囁かれることもなかった。

(初めてのことで舞い上がってしまったけれど、お兄様のおっしゃる通りだわ。

そう、お父様からお許しなど出ない・・・・・・・・のだもの)

内心の動揺を抑えてお二人に声を掛ける。

「お兄様、わたくし用事を思い出しましたわ。お先に部屋に戻らせていただきますね。オリバー様もごきげんよう」

「「え…………」」

目を瞬くお二人に軽くカーテシーをして、何事も無かったように、颯爽とダイニングルームを後にした。

「えっ、ちょっと?エリザベス嬢!」

背中にオリバー様の追いかける声が聞こえたような気がしたけれど、もう扉は閉まった後だった。
___________

あれほど早く行きたかった公爵邸の図書室には足が向かず、真っ直ぐに部屋へ戻った。

「お嬢様、軽くつまめる物をお持ちしました」

「ありがとう、ラリサ」

「でも、びっくりいたしましたね。まさかアプロウズ家のオリバー様が…」

「そうね、でもグリサリオとアプロウズの婚姻などあり得ないもの。きっとご冗談じゃないかしら」

「それに奥様のお告げもありますものね、お嬢様が公爵家を離れるわけにもいきませんし…」

「…ゴホッ」

一口サイズのサンドイッチが喉につまってしまい、紅茶で流し込む。

(お母様のお告げ、すっかり忘れていたわ!)

「そうは言っても「宵闇の君」から求婚されるなんて!さすがはラリサのお嬢様ですわ!」

「ラリサったら」

(王太子殿下との婚約破棄なんて不敬をしておいて、五大公爵家のうちのグリサリオ家とアプロウズ家の婚姻なんて…。
王家に叛意があると受け取られかねないもの。
きっと、お兄様があの後お断りになっているわね)

何だか熱を持っているような気がして、オリバー様の触れた右手を胸元で握りしめた。

けれど想像に反して、その日からグリサリオ公爵邸には、オリバー様からわたくしへの贈り物が毎日のように届いたのだった。

アプロウズ家のシンボルである「青薔薇」の花束を添えて…。
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