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シェパーズ・ルーセニア
2話
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スティード国といえば国王が代替わりしそうだという話は耳にしたことがあった。シェパーズは会ったことはないが次期国王である皇太子はそれとなく耳にしたことはある。その話では、特別問題なかったはずだ。
どんなに頭がお花畑でも、腹の中では一物抱えていても、ルーセニア家やラース家の一族にあの態度はない。ここ数年、大きな事件がなかったせいか変なものが湧いたのだろうか。たかが数年でこのような事態になるなんて少々、釘を刺しておくべきか迷うところだ。
そんなことを考えていると、不意に紅茶の匂いにがするのにシェパーズは気づいて周囲をゆっくりと見渡した。
「シェパーズ姉様、お菓子いる?」
「そのケーキおすすめですよ、うちのシェフの新作です」
シェパーズの目の前ではにこやかにチャードとアンバーが少しずつ盛られたケーキを皿ごと勧めてくる。
「チャード、どれだけ食べる気?」
グラジオスはチャードの目の前に置かれた皿のケーキの数をみてうんざりしていた。その隣ではアクアマリンが皆に紅茶を入れている。
「シェパーズ様、お寒くはないでしょうか」
「ありがとう、アプリコット」
背後に控えていた側付きのアプリコットが持ってきたストールを彼女の肩に掛けた。
どうやら、いつの間にかシェパーズ達はパーティ会場から別室へと移動していたらしい。ゆったりとしたソファに先程の顔ぶれが揃っていた。
皇太子アンバー、宰相エルカラート、騎士団長セルリアン、そしてシェパーズの大事な3人は付き合いが長い。事情があって年齢が一桁の頃から仲良く暮らしていた時期もあった。そのためか非公式の場では礼儀も何もない。アクアマリンが本来ならメイドがやるようなお茶汲みをしているのがいい例だ。…ある意味、寛いでいる時に毒が混入される危険も防ぐためでもある、という建前があるにはあるが。他にも幼馴染達はいるが、色々と忙しいためこの場にはいない。それぞれの立場も何もなく、昔はよく取っ組み合いの喧嘩や皮肉を言い合っていたのを眺めていたのをシェパーズは懐かしいなと、想いに耽っていると、例の男についての話が再開された。
「で、何がしたかったの?アレ」
グラジオスがケーキが山と積まれている妹の皿からひとつ摘む。あの場ではシェパーズ達のすぐ後ろにいたはずだ。現場を見ているはずだが、とても興味なさそうに見える。
グラジオスにとってカップの一つも避けられない人間は彼の興味の範囲外なのだろう。
「スティード…アルフレッド殿下の国の人間だな」
「アルフレッド殿下が顔出す予定だったが、確か直前でアレに変わったと聞いている」
セルリアンとエルカラートが話す内容からどうやら元々のアルカンシェルに滞在予定であった皇太子を押し退けてアレがやってきた、らしい。おそらく見合い相手に選ばれたのが理由であることが想像できる。しかもスティードの皇太子の従兄弟でもあると。
「もしかしてスティードの内紛にでも利用された?」
「わたくしの見合いを決めるのは女王陛下よ?チャード」
このお見合いを決めたのは女王陛下達だ。それに間違いはない。そもそも、とある国が利用することはあれど、利用されるような手落ちはないはずである。考えられるのはスティード国に女王陛下の琴線に触れるようなことがあると思った方がいい。
「姉様、何か他にしましたか?」
「何もしてませんよ」
そもそも興味が全くない相手だった。初めて顔を合わせた時もしばらく呆けていたと思ったら、胡散臭い笑顔を貼り付けながら嫌な目線を向けてきたので、正直同じテーブルにつくのも不愉快だった。だからいつもよりも早く、相手が何か話す前に入れられた飲み物の中身をぶちまけてやったのである。
こんなもの飲めるかと。
「流石に何が入ってたかは分かりませんが、確実に害になるものでしょうね」
媚薬、毒薬、睡眠薬…などルーセニア家序列第三位のシェパーズはそれなりに色んな薬を盛られた事があるし、誘拐や刺客を向けられたことも数えられないほどある。もちろんシェパーズだけではないが。
シェパーズの歴代の見合い相手は全員何かしら仕掛けてくれていた。今回もカップを持った瞬間、甘い薬の香りがほんの少しだけあったため紅茶に何か盛ったなと呆れていたのだ。流石に見合い場所が他国のため茶器には何もなかったが、過去にはカップの淵に媚薬が塗られていたこともある。そもそもシェパーズ達と結婚したければ飛んできた物を避けるなどの対策もできなければ話にならない。できなくてはすぐに死ぬのだから。
とある国の王族の伴侶となるものにはそれ相応の何かが求められる。強さであったり、賢さであったり…これと言って決まってはない。シェパーズ達は自ら伴侶を見定め、自ら選びとっていく自由が与えられているため、そこには政略的な婚姻は存在しない。そのためその伴侶に選ばれる努力も課せられている。薬ごときでどうにかなる存在ではないのだ。
「とりあえずスティードの皇太子が到着しませんと話がは始まりませんね?アンバー様」
「そうですね、その間はこちらで責任を持って牢に繋いでおくので」
流石に他の国の王族を勝手に処罰はできない、それは越権行為に当たる。相応しい罪を決めるためにスティードの皇太子を交えた話をする必要があった。現在、ハザードと名乗った例の男は牢へと放り込まれている。牢屋といっても貴族用の物で質素な客室である。もちろん窓には鉄格子が付いているので収監されているというよりかは軟禁されている身に近い。
「部下に聞いてみたらだいぶ暴れているらしいぜ」
「うわぁ…」
セルリアン曰く、次期国王をこんな場所に閉じ込めていいのか等の暴言を吐きながら部屋で暴れているらしい。チャードが迷惑そうに眉を顰めた。全くもって今の自分の身分をわかってないらしい。
「次期国王、ね」
大した妄言だ。たかが王族の血筋なだけの公爵家の長男が言っていいことと悪いことの区別がつかないとは教育を施した親の顔が見てみたいものだ。
「しかし、姉様にあんなにあからさまに暴言を吐く人間がいるとは思いませんでした」
「…ですよね」
「喧嘩でも売りにきたんじゃない?」
アクアマリン達の言葉にアンバーも達も頷く。ハザードという男の目的がなんなのかわからないが、とある国の王族にあの態度はない。しかもアルカンシエル国の貴族だけではなくあの夜会にいた各国の大使達もみていたはずだ。被害者のシェパーズ、会場のアルカンシエル国、被疑者のスティード国がどういう対応に出るか高みの見物を決め込んでいるに違いない。
「おじ…国王から今回の采配俺に任せると言われました」
「アルカンシエルのお爺さま、最近調子悪いからね」
アンバーの言葉にチャードがため息をつく。アルカンシエルの国王は穏健なことで有名でチャードがお爺さまと懐いている。高齢で近々退位するともっぱらの噂なため、次期国王であるアンバーに色々な思惑で近寄ろうとする人間がたくさんいてアンバーも多忙な毎日を送っていた。夜会の時に遅れてやってきたのもその関係だろう。
アンバーは今の国王の実子ではない。正確にいうと今の国王の年の離れた弟の一人息子だ。アルカンシエル国の王族は数年前の政変で王位継承者を持つ人間が一気に減ってしまった。今の国王に息子はいるが、事情があり血が繋がった子供でなく養子であるため王位継承者はアンバーただ1人である。本人も国王になる気などさらさらなく。従兄弟が国王になる者だと思っていたらしい。
そのためかアンバーは年若い次期アルカンシエル国王として色々と縋りつかれている。夜会でシェパーズのところへ遅れてやってきたのもそのせいだ。邪魔が入らなければ、あんな茶番は数秒で終わったに違いない。
「本国への連絡はどうされますか」
「いつも通り、何もなかったと」
シェパーズの言葉にアプリコットが軽く頷くと気配もなく消えた。本国にいる女王陛下宛に連絡を出しに行ったのだ。定期連絡をしなければどんな騒ぎになるかわかったものではない。恐らく見合いはともかく、夜会であった事件についてすでに耳にはしているだろうが、シェパーズが何も言ってこない限り手は出してこないはずだ。暇な女王陛下達はシェパーズ達がどんな行動をするか高みの見物を決め込んでいるだろう。
「今日の仕切り直しに、また歓迎の宴を開きます」
「次は、スティードの皇太子も参加してもらいましょう」
アンバーの言葉にエルカラートが日程を調整しますと書類を広げ始めた。セルリアンも警備の人数を増やす必要があるなと部下に調整をかけるよう指示を出した。
そもそも、今日の夜会はシェパーズの歓迎の意味もあった。見合いのために数日前からアルカンシエルに滞在していたが、それなりの情報規制をしていた。一部の人間以外にはアルカンシエルへと交流のためという表向きの理由が広く知られている。
だが今日の夜会で、嘘か誠かシェパーズ・ルーセニアが婚約破棄された。実際に婚約どころか茶会もできなかったのにシェパーズは婚約破棄された傷物姫だ。いくらとある国の姫とはいえ傷物になれば手が出せるのではないか、あるいは婚約破棄などとよくわからない暴言を吐かれたかわいそうな姫につけ込めるのではないか、グラジオスあたりが聞けば笑い話のような噂が明日には出回るだろう。何せ相手は声もかけることも憚られる、とある国の王族。大半の人間はシェパーズの容姿を見て美しく華奢なお姫様だと勘違いする。アンバー達昔の顔馴染みは言動をよく見ろと声に出して言いたいが、残念ながら容姿の方が説得力が強かった。
婚約破棄だの色々と面倒になりそうなことを叫んでくれた馬鹿のせいで妙な憶測が出るのは避けたかった。明日から出る噂は仕方がないとはいえ、放っておくのはとてもめんどくさい。いちいち手紙やらなんやら相手する暇はシェパーズにはない。色々と払拭するためスティードの皇太子も呼んで公の場で、たくさんの目がある中で、一度にはっきりとした方がいい。
「スティードの皇太子にも協力していただかないと、ね」
うふふと笑うシェパーズ。彼女の様子にそこまで怒ることがあっただろうかとチャードは首を傾げていたが、アクアマリンとグラジオスはさもありなんとそっと目を逸らしていた。
どんなに頭がお花畑でも、腹の中では一物抱えていても、ルーセニア家やラース家の一族にあの態度はない。ここ数年、大きな事件がなかったせいか変なものが湧いたのだろうか。たかが数年でこのような事態になるなんて少々、釘を刺しておくべきか迷うところだ。
そんなことを考えていると、不意に紅茶の匂いにがするのにシェパーズは気づいて周囲をゆっくりと見渡した。
「シェパーズ姉様、お菓子いる?」
「そのケーキおすすめですよ、うちのシェフの新作です」
シェパーズの目の前ではにこやかにチャードとアンバーが少しずつ盛られたケーキを皿ごと勧めてくる。
「チャード、どれだけ食べる気?」
グラジオスはチャードの目の前に置かれた皿のケーキの数をみてうんざりしていた。その隣ではアクアマリンが皆に紅茶を入れている。
「シェパーズ様、お寒くはないでしょうか」
「ありがとう、アプリコット」
背後に控えていた側付きのアプリコットが持ってきたストールを彼女の肩に掛けた。
どうやら、いつの間にかシェパーズ達はパーティ会場から別室へと移動していたらしい。ゆったりとしたソファに先程の顔ぶれが揃っていた。
皇太子アンバー、宰相エルカラート、騎士団長セルリアン、そしてシェパーズの大事な3人は付き合いが長い。事情があって年齢が一桁の頃から仲良く暮らしていた時期もあった。そのためか非公式の場では礼儀も何もない。アクアマリンが本来ならメイドがやるようなお茶汲みをしているのがいい例だ。…ある意味、寛いでいる時に毒が混入される危険も防ぐためでもある、という建前があるにはあるが。他にも幼馴染達はいるが、色々と忙しいためこの場にはいない。それぞれの立場も何もなく、昔はよく取っ組み合いの喧嘩や皮肉を言い合っていたのを眺めていたのをシェパーズは懐かしいなと、想いに耽っていると、例の男についての話が再開された。
「で、何がしたかったの?アレ」
グラジオスがケーキが山と積まれている妹の皿からひとつ摘む。あの場ではシェパーズ達のすぐ後ろにいたはずだ。現場を見ているはずだが、とても興味なさそうに見える。
グラジオスにとってカップの一つも避けられない人間は彼の興味の範囲外なのだろう。
「スティード…アルフレッド殿下の国の人間だな」
「アルフレッド殿下が顔出す予定だったが、確か直前でアレに変わったと聞いている」
セルリアンとエルカラートが話す内容からどうやら元々のアルカンシェルに滞在予定であった皇太子を押し退けてアレがやってきた、らしい。おそらく見合い相手に選ばれたのが理由であることが想像できる。しかもスティードの皇太子の従兄弟でもあると。
「もしかしてスティードの内紛にでも利用された?」
「わたくしの見合いを決めるのは女王陛下よ?チャード」
このお見合いを決めたのは女王陛下達だ。それに間違いはない。そもそも、とある国が利用することはあれど、利用されるような手落ちはないはずである。考えられるのはスティード国に女王陛下の琴線に触れるようなことがあると思った方がいい。
「姉様、何か他にしましたか?」
「何もしてませんよ」
そもそも興味が全くない相手だった。初めて顔を合わせた時もしばらく呆けていたと思ったら、胡散臭い笑顔を貼り付けながら嫌な目線を向けてきたので、正直同じテーブルにつくのも不愉快だった。だからいつもよりも早く、相手が何か話す前に入れられた飲み物の中身をぶちまけてやったのである。
こんなもの飲めるかと。
「流石に何が入ってたかは分かりませんが、確実に害になるものでしょうね」
媚薬、毒薬、睡眠薬…などルーセニア家序列第三位のシェパーズはそれなりに色んな薬を盛られた事があるし、誘拐や刺客を向けられたことも数えられないほどある。もちろんシェパーズだけではないが。
シェパーズの歴代の見合い相手は全員何かしら仕掛けてくれていた。今回もカップを持った瞬間、甘い薬の香りがほんの少しだけあったため紅茶に何か盛ったなと呆れていたのだ。流石に見合い場所が他国のため茶器には何もなかったが、過去にはカップの淵に媚薬が塗られていたこともある。そもそもシェパーズ達と結婚したければ飛んできた物を避けるなどの対策もできなければ話にならない。できなくてはすぐに死ぬのだから。
とある国の王族の伴侶となるものにはそれ相応の何かが求められる。強さであったり、賢さであったり…これと言って決まってはない。シェパーズ達は自ら伴侶を見定め、自ら選びとっていく自由が与えられているため、そこには政略的な婚姻は存在しない。そのためその伴侶に選ばれる努力も課せられている。薬ごときでどうにかなる存在ではないのだ。
「とりあえずスティードの皇太子が到着しませんと話がは始まりませんね?アンバー様」
「そうですね、その間はこちらで責任を持って牢に繋いでおくので」
流石に他の国の王族を勝手に処罰はできない、それは越権行為に当たる。相応しい罪を決めるためにスティードの皇太子を交えた話をする必要があった。現在、ハザードと名乗った例の男は牢へと放り込まれている。牢屋といっても貴族用の物で質素な客室である。もちろん窓には鉄格子が付いているので収監されているというよりかは軟禁されている身に近い。
「部下に聞いてみたらだいぶ暴れているらしいぜ」
「うわぁ…」
セルリアン曰く、次期国王をこんな場所に閉じ込めていいのか等の暴言を吐きながら部屋で暴れているらしい。チャードが迷惑そうに眉を顰めた。全くもって今の自分の身分をわかってないらしい。
「次期国王、ね」
大した妄言だ。たかが王族の血筋なだけの公爵家の長男が言っていいことと悪いことの区別がつかないとは教育を施した親の顔が見てみたいものだ。
「しかし、姉様にあんなにあからさまに暴言を吐く人間がいるとは思いませんでした」
「…ですよね」
「喧嘩でも売りにきたんじゃない?」
アクアマリン達の言葉にアンバーも達も頷く。ハザードという男の目的がなんなのかわからないが、とある国の王族にあの態度はない。しかもアルカンシエル国の貴族だけではなくあの夜会にいた各国の大使達もみていたはずだ。被害者のシェパーズ、会場のアルカンシエル国、被疑者のスティード国がどういう対応に出るか高みの見物を決め込んでいるに違いない。
「おじ…国王から今回の采配俺に任せると言われました」
「アルカンシエルのお爺さま、最近調子悪いからね」
アンバーの言葉にチャードがため息をつく。アルカンシエルの国王は穏健なことで有名でチャードがお爺さまと懐いている。高齢で近々退位するともっぱらの噂なため、次期国王であるアンバーに色々な思惑で近寄ろうとする人間がたくさんいてアンバーも多忙な毎日を送っていた。夜会の時に遅れてやってきたのもその関係だろう。
アンバーは今の国王の実子ではない。正確にいうと今の国王の年の離れた弟の一人息子だ。アルカンシエル国の王族は数年前の政変で王位継承者を持つ人間が一気に減ってしまった。今の国王に息子はいるが、事情があり血が繋がった子供でなく養子であるため王位継承者はアンバーただ1人である。本人も国王になる気などさらさらなく。従兄弟が国王になる者だと思っていたらしい。
そのためかアンバーは年若い次期アルカンシエル国王として色々と縋りつかれている。夜会でシェパーズのところへ遅れてやってきたのもそのせいだ。邪魔が入らなければ、あんな茶番は数秒で終わったに違いない。
「本国への連絡はどうされますか」
「いつも通り、何もなかったと」
シェパーズの言葉にアプリコットが軽く頷くと気配もなく消えた。本国にいる女王陛下宛に連絡を出しに行ったのだ。定期連絡をしなければどんな騒ぎになるかわかったものではない。恐らく見合いはともかく、夜会であった事件についてすでに耳にはしているだろうが、シェパーズが何も言ってこない限り手は出してこないはずだ。暇な女王陛下達はシェパーズ達がどんな行動をするか高みの見物を決め込んでいるだろう。
「今日の仕切り直しに、また歓迎の宴を開きます」
「次は、スティードの皇太子も参加してもらいましょう」
アンバーの言葉にエルカラートが日程を調整しますと書類を広げ始めた。セルリアンも警備の人数を増やす必要があるなと部下に調整をかけるよう指示を出した。
そもそも、今日の夜会はシェパーズの歓迎の意味もあった。見合いのために数日前からアルカンシエルに滞在していたが、それなりの情報規制をしていた。一部の人間以外にはアルカンシエルへと交流のためという表向きの理由が広く知られている。
だが今日の夜会で、嘘か誠かシェパーズ・ルーセニアが婚約破棄された。実際に婚約どころか茶会もできなかったのにシェパーズは婚約破棄された傷物姫だ。いくらとある国の姫とはいえ傷物になれば手が出せるのではないか、あるいは婚約破棄などとよくわからない暴言を吐かれたかわいそうな姫につけ込めるのではないか、グラジオスあたりが聞けば笑い話のような噂が明日には出回るだろう。何せ相手は声もかけることも憚られる、とある国の王族。大半の人間はシェパーズの容姿を見て美しく華奢なお姫様だと勘違いする。アンバー達昔の顔馴染みは言動をよく見ろと声に出して言いたいが、残念ながら容姿の方が説得力が強かった。
婚約破棄だの色々と面倒になりそうなことを叫んでくれた馬鹿のせいで妙な憶測が出るのは避けたかった。明日から出る噂は仕方がないとはいえ、放っておくのはとてもめんどくさい。いちいち手紙やらなんやら相手する暇はシェパーズにはない。色々と払拭するためスティードの皇太子も呼んで公の場で、たくさんの目がある中で、一度にはっきりとした方がいい。
「スティードの皇太子にも協力していただかないと、ね」
うふふと笑うシェパーズ。彼女の様子にそこまで怒ることがあっただろうかとチャードは首を傾げていたが、アクアマリンとグラジオスはさもありなんとそっと目を逸らしていた。
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