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第二章 クズは学校へ
第36話
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「夏はなんだか青春って感じがする」
僕の隣で妙にステップを刻みながら歩く彼女は、真っ青な空に流れる入道雲を一点に見つめながら呟いた。
「太陽のにおいも、セミの鳴き声も、頬を伝う汗の感触も……、ほら、この一面に広がる田んぼだって――――」
彼女は急に走り出す。
――――揺れる制服のスカート。
――――かすかに聞こえる彼女の息遣い。
――――艶やかに舞う長い黒髪。
田んぼと水路に挟まれた細い一本道を駆ける彼女の後ろ姿はさながら一昔前の青春ドラマのワンシーンのようだった。
少しして、彼女は立ち止まって僕のほうを振り返った。
僕も自然と歩みが止まった。
「君はそう思わない?」
小首をかしげ、彼女は僕に尋ねた。
「それはたぶん、制服のマジックだよ」
「そうかな」
「そうさ、それは学生特有の感覚さ」
我ながら偏屈な回答だ、と僕は思った。
白いワイシャツのシワが太陽の光によってより鮮明に僕の目に映る。
彼女はそれさえも青春の証としてしまうのだろうか。
また、彼女は前を向き、今度はゆっくりと歩きだす。
「だったら君にもそういう感覚があるんでしょ?」
「僕に限っては持ち合わせていないものだよ」
「どうして?」
「どうして、って――――」
無地の黒シャツを着ている僕の姿を見て察してほしいと思ったが、そんなことは彼女にとってはお構いなしみたいだ。
「まあ、強いて言うなら冷房のにおいは結構好き、かな」
「えー?なんかちょっと違うなー」
彼女の笑う声が稲穂を揺らす。
「……でも、ちょっとわかるかも」
そう囁いた彼女は早歩きで僕に近づき、気づけば僕の目の前に立っていた。
「……ねぇ」
「…………」
「……こっちだよ」
両手で僕の頬をグイっと持ち上げる彼女。
僕は初めて彼女と目を交わした。
――――途端、彼女は僕に口づけをする。
僕の鼻孔をくすぐるシャンプーの香り。
彼女の髪が僕の首筋に触れてくすぐったい。
――――僕と彼女を取り巻くこの空間には、青春の風が吹き流れていた。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「これは、五味黒水の処女作『青春の風に乗って』から一部抜粋した文章よ!」
「なんでお前がそれを持ってんだよ!実家の押し入れに封印していたはずだぞ!」
黒水は全身の痛みも忘れて、その場でのたうち回っていた。
両親も含めて誰も知らないはずの黒水の黒歴史がいま、悪魔の手元にあるのだから――。
「そりゃ、元風紀委員長ですもの。こんなもの簡単に入手できるわ!」
「この世界の風紀委員長凄すぎるだろ!」
「さてさて、次はどの部分を音読しようかしら……」
「頼むからやめてくれええええええええええええ!!!!」
黒水は奏に土下座を見せて懇願した。
さっきまで動かなかった体が嘘のように、きれいな土下座のフォームだった。
「この文章からは全然黒水様の良さが伝わってきません!いきなり女のケツを揉む描写とかないんですかっ!」
いつの間にか立ち上がっていた亜紀が黒水に対して迫るように言及した。
「安心して!主人公はこの後ちゃんとこの女をめちゃくちゃに犯しているわ!」
「それなら安心ですっ!」
「安心するなっ!あと、俺それ純愛のつもりで書いたんだけど……」
胸をなでおろす亜紀に対して、黒水は土下座のままがっくりと項垂れた。
「まあ、今日のところはここでの恥さらしで留めておくわ。でも次に今日みたいな出来事が起きたら……わかっているわね?」
奏は原稿用紙をひらひらとさせ、脅すような口調で言った。
「いや、だからそれはお前のせいで――」
「それがたとえ事故だったとしても、絶対にあってはならないことなのよ――」
奏の顔は真剣そのものだった。
ただのラッキースケベだというのに、なぜ奏がここまで重く受け止めているのか不思議で仕方がなかった。
「次俺が女のおっぱいやケツを揉むことがあったとしたら……?」
「この小説を顔写真付きでこの世界全体に晒し上げるわ」
「……………」
――それだけは絶対避けたい。
でも、この学園都市にいるあいだずっとエッチなことができないということも意味している。
なんというジレンマなのか……。
「とにかく、これ以上の痴漢行為は許されないわ!でも、特訓自体は続けていくわ!せいぜい触れそうで触れない女の体にイライラすることね!お風呂入ってくるわ!」
奏は怒った様子でズカズカと足音立てて教室の扉のほうへ向かった。
「触るのがダメってことは、女子風呂を覗くのは――」
「私の手元にはあんたの二作目のライトノベル、『ママみたいな彼女に俺のバブみが止まらないんだが!?』もあるのよ……」
「すみませんでしたあああああああ!!!!」
奏の去り際の一言に、黒水は再度扉に向かって土下座をした。
そして、痴漢行為やそれに近しい行為はしないと心に誓う黒水だった。
僕の隣で妙にステップを刻みながら歩く彼女は、真っ青な空に流れる入道雲を一点に見つめながら呟いた。
「太陽のにおいも、セミの鳴き声も、頬を伝う汗の感触も……、ほら、この一面に広がる田んぼだって――――」
彼女は急に走り出す。
――――揺れる制服のスカート。
――――かすかに聞こえる彼女の息遣い。
――――艶やかに舞う長い黒髪。
田んぼと水路に挟まれた細い一本道を駆ける彼女の後ろ姿はさながら一昔前の青春ドラマのワンシーンのようだった。
少しして、彼女は立ち止まって僕のほうを振り返った。
僕も自然と歩みが止まった。
「君はそう思わない?」
小首をかしげ、彼女は僕に尋ねた。
「それはたぶん、制服のマジックだよ」
「そうかな」
「そうさ、それは学生特有の感覚さ」
我ながら偏屈な回答だ、と僕は思った。
白いワイシャツのシワが太陽の光によってより鮮明に僕の目に映る。
彼女はそれさえも青春の証としてしまうのだろうか。
また、彼女は前を向き、今度はゆっくりと歩きだす。
「だったら君にもそういう感覚があるんでしょ?」
「僕に限っては持ち合わせていないものだよ」
「どうして?」
「どうして、って――――」
無地の黒シャツを着ている僕の姿を見て察してほしいと思ったが、そんなことは彼女にとってはお構いなしみたいだ。
「まあ、強いて言うなら冷房のにおいは結構好き、かな」
「えー?なんかちょっと違うなー」
彼女の笑う声が稲穂を揺らす。
「……でも、ちょっとわかるかも」
そう囁いた彼女は早歩きで僕に近づき、気づけば僕の目の前に立っていた。
「……ねぇ」
「…………」
「……こっちだよ」
両手で僕の頬をグイっと持ち上げる彼女。
僕は初めて彼女と目を交わした。
――――途端、彼女は僕に口づけをする。
僕の鼻孔をくすぐるシャンプーの香り。
彼女の髪が僕の首筋に触れてくすぐったい。
――――僕と彼女を取り巻くこの空間には、青春の風が吹き流れていた。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「これは、五味黒水の処女作『青春の風に乗って』から一部抜粋した文章よ!」
「なんでお前がそれを持ってんだよ!実家の押し入れに封印していたはずだぞ!」
黒水は全身の痛みも忘れて、その場でのたうち回っていた。
両親も含めて誰も知らないはずの黒水の黒歴史がいま、悪魔の手元にあるのだから――。
「そりゃ、元風紀委員長ですもの。こんなもの簡単に入手できるわ!」
「この世界の風紀委員長凄すぎるだろ!」
「さてさて、次はどの部分を音読しようかしら……」
「頼むからやめてくれええええええええええええ!!!!」
黒水は奏に土下座を見せて懇願した。
さっきまで動かなかった体が嘘のように、きれいな土下座のフォームだった。
「この文章からは全然黒水様の良さが伝わってきません!いきなり女のケツを揉む描写とかないんですかっ!」
いつの間にか立ち上がっていた亜紀が黒水に対して迫るように言及した。
「安心して!主人公はこの後ちゃんとこの女をめちゃくちゃに犯しているわ!」
「それなら安心ですっ!」
「安心するなっ!あと、俺それ純愛のつもりで書いたんだけど……」
胸をなでおろす亜紀に対して、黒水は土下座のままがっくりと項垂れた。
「まあ、今日のところはここでの恥さらしで留めておくわ。でも次に今日みたいな出来事が起きたら……わかっているわね?」
奏は原稿用紙をひらひらとさせ、脅すような口調で言った。
「いや、だからそれはお前のせいで――」
「それがたとえ事故だったとしても、絶対にあってはならないことなのよ――」
奏の顔は真剣そのものだった。
ただのラッキースケベだというのに、なぜ奏がここまで重く受け止めているのか不思議で仕方がなかった。
「次俺が女のおっぱいやケツを揉むことがあったとしたら……?」
「この小説を顔写真付きでこの世界全体に晒し上げるわ」
「……………」
――それだけは絶対避けたい。
でも、この学園都市にいるあいだずっとエッチなことができないということも意味している。
なんというジレンマなのか……。
「とにかく、これ以上の痴漢行為は許されないわ!でも、特訓自体は続けていくわ!せいぜい触れそうで触れない女の体にイライラすることね!お風呂入ってくるわ!」
奏は怒った様子でズカズカと足音立てて教室の扉のほうへ向かった。
「触るのがダメってことは、女子風呂を覗くのは――」
「私の手元にはあんたの二作目のライトノベル、『ママみたいな彼女に俺のバブみが止まらないんだが!?』もあるのよ……」
「すみませんでしたあああああああ!!!!」
奏の去り際の一言に、黒水は再度扉に向かって土下座をした。
そして、痴漢行為やそれに近しい行為はしないと心に誓う黒水だった。
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