アラフォー幼女は異世界で大魔女を目指します

梅丸みかん

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第一章 塔の上から見た異世界

14, 隠れ魔法陣

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 四つ目の部屋に足を踏み入れると、そこら中に円形の魔法陣のようなものがびっしり。

 まるでオシャレなタイル模様かと思うほど整然としていて、一瞬「内装、凝ってんな」と思ったけど、冷静に考えたら怖いわコレ。

「えっと、師匠? これって、魔法陣で合ってます?」
「いかにも。これは妾が開発した“転移魔法陣”じゃ」

「転移魔法陣……! ってことは、もしかしてこの魔法陣を使えば、この世界のどこへでも、ひゅん! って飛べる感じ?」

 私は目をキラキラさせて師匠に詰め寄った。そりゃ期待しちゃうよ、だって――

 この塔、森のド真ん中にあるんですけど?
 展望台から見た限り、全方向どこまでも森。遠くには山と海、そして妙に気になる謎の巨大な壁。

 私の予想では、あの壁の向こうに人が住んでる“文明圏”があるはず。けど、徒歩で行くには何日かかるかわからない。途中で野生動物に襲われてゲームオーバーだって十分あり得る。

 そんな中で「転移魔法陣です」とか言われたら、そりゃ希望を抱くってもんよ!

「……まぁ、そうなんじゃがな」
 師匠が言いにくそうに視線を逸らす。え、なんかイヤな予感。

「実はこの魔法陣……ちょっと問題があるんじゃ。確実に行くことができるのはこの塔の1階エントランスだけなんじゃ。他の場所に行きたければ……うむ、ミカが研究を続けてくれれば、使い勝手が良くなるじゃろうて。任せたぞ、一番弟子よ!」

 師匠はサラッと責任を放り投げた。

「いやいやいや! 丸投げかい!」
 すかさずツッコミを入れた私の声が、部屋にこだました。

「“一番弟子”って言うけど、二番目以降どこにいるのよ? いなくない? むしろ私しかいないじゃん!」

「それは……これからじゃ!」
 ドヤァ、と胸を張る人形の師匠。……その自信、どこからくるの。

 だんだんこの魔女の本性が見えてきた。発想は天才っぽいんだけど、やることが八割ノリって感じだ。

 魔法も、魔導具も、研究室も、ぜんぶスゴイっちゃスゴイけど……「とりあえずやってみた」感がそこかしこに漂う、絶妙な適当さ。信じていいのか、わからん!

 科学の実験ならラボで済むけど、こっちは命がかかってるんだよ!?
 それでも、今の私がこの世界で頼れる存在は、このフリーダム魔女・ポポロン師匠ただ一人。

 一抹の不安はぬぐえないけど、今は彼女に従うしかないか。

「でも、ここにある魔法陣……なんか複雑だよね。模様が全部違う……ん?」
 ふと、壁際の一つの魔法陣に視線が止まった。ほんのり光っているように見える。

 なんだろう、ほかと違ってなんかアクティブっぽい雰囲気が……。
 私はふらふらとその魔法陣に近づき、無意識に手を伸ばしていた。

「待つのじゃーー!! その魔法陣に触れるでない!」
 師匠の叫びが飛んできたのは、指先がほぼ触れかけたその瞬間だった。

「えっ?」
 ビクッと動きを止める私。

「その魔法陣に触れたらどこに飛ばされるかわからぬ。他の魔法陣にも安易に触れぬ方がいい」
「ちょっ……それ、もはや罠でしょ? どこかにある“ここ押すな”ボタンレベルのヤツでしょ? 完全にダンジョン!」

 思わず声を荒げる私。マジで危なかった。これ、うっかり押してたら「幼児の姿で魔界のど真ん中に転送」とか洒落にならんやつだったでしょ?

 そもそもこの魔法陣、何割ちゃんと動くんですかね……?
 ほんと、なんちゅう中途半端な転移魔法陣を作っているのよ。
 やばい、本当にこの師匠に魔法を教わって大丈夫なのか不安になってきた。

「それほどビビることはない。飛ばされたとしても、せいぜいこの森のどこかじゃ。そう遠くまでは飛ばん」
「その“せいぜい”が怖いんじゃい!!」

 森の真ん中に突然転移したら、すぐに猛獣の餌食になりそうだ。猛獣がいるのかどうかわからないけど……私の直感が「いる」って言ってる!

 この柔らかそうな幼児特有のぷよぷよ体。野生動物たちはきっと喜んでお召し上がりになるにちがいない。
 本当にこの師匠、どこまで常識が通じないんだろう。
 
 もはや魔法より、この人形の行動のほうがよっぽどファンタジーだわ。

「今日のところは、転移部屋はこの辺でいいじゃろう。エントランスは外に出る時でいいか。その時、この転移魔法陣を使って案内しよう」
 そう言って胸を張る師匠に、私はすかさず手を挙げた。

「えっと、師匠? あのぉ……私、せっかくだし、あの立派な螺旋階段を使ってエントランスまで行きたいなーって思ってたんだけど……」

 なにせ、この転移魔法陣――ちょっとしたトラウマになりかけている。ほんとうにエントランスまで行くのか不安だ。

「それは無理じゃな」
「……は?」
 あまりに即答すぎて脳が処理を拒否した。

「いやいや、無理って……時間がかかるってこと? それとも危ないから階段禁止? でも階段は……見た限り、ちゃんと下まで続いてるよね?」
 私の質問に、師匠は当然のように首を横に振った。

「いやいや、続いておらん。あれは見た目だけじゃ。エントランスまではここにある魔法陣を使うしかないのじゃ」
 まさかのフェイク階段。

 どういうことなのか頭が追いつかず、目をパチパチさせる私。

「えっと、でも……階段、ちゃんと螺旋でぐるぐる回って下に続いてるように見えるんだけど……?」

「その方が塔の中っぽいじゃろう。あれはただ“下に続いているように見えるだけ”なのじゃ。実際には、途中から壁じゃ」

「壁ーーっ!? じゃあ、あの下に行けなかったのって、視覚トリックだったわけ!?」
 おかしいな……だんだん師匠のことが信じられなくなってきたぞ。

「なんでそんなトラップみたいなことするのよ!? 普通に階段作ってくれればよかったじゃん!」
「いや、塔と言えば螺旋階段じゃろ? それっぽい雰囲気が必要なのじゃ」

「演出? それってただの演出だというの?」
 頭を抱える私をよそに、師匠は部屋の端を指さす。

「ほれ、これがエントランス行きの魔法陣じゃ。こやつを使えば、ひとっ飛びじゃ」
 師匠が示したのは、なんと部屋の隅にちょこんと描かれた――一番小さい魔法陣。

 えっ、これ? あれだけ壁や床にド派手な魔法陣がズラリと並んでたのに? 一番地味で、目立たないやつが本命?

「一番使える魔法陣が、一番目立たないのってどうなの? ユーザビリティの概念ないの?」
「目立たないからこそ安全なのじゃ。いざという時の脱出用にもなる。名付けて、“隠れ転移”!」
 なんか師匠がそう言うと妙に納得してしまう。

 とはいえ、この塔自体それほど危険性はなさそうなんだけど。
 こんな森の真ん中まで来る物好きがそうそういるとは思えない。

 師匠への信頼度はいまいちだけど、今の時点で他に頼れる者はいない。
 仕方ない。もうなるようにしかならないだろう。
「……もう、いいです。エントランス、魔法陣でお願いします……」

 私は小さくため息をつきながら、半ば諦めの心境でその小さな魔法陣を見つめた。

 なんというか、今の心境を一言で言うなら――
「信じてるわけじゃないけど、他に選択肢がない」である。


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