魔法学校の、あの部屋で会いましょう

nandemoarisa

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言い訳、良い訳ない

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 最近学校では、毎日ダンスパーティの話で賑わっている。男たちは、人によってそれぞれで、大声で誰かを誘う話をする者や、こそこそと相手の様子を伺う者、そして、俺のような「我関せず」のタイプがいる。

 両親は何とはなしに「厳格な家の娘を選ぶように」というようなことを手紙に書いて寄越した。「厳格な家」の者なんて限られる。俺にはそんなに選択肢はない。
 自分の誘いたい相手は厳格な家の者だが、両親同士が犬猿の仲なのだから。彼女を選ぶことは出来ない。

 誰もいない部屋で温かい紅茶を飲みながら、ため息を吐いた。外では、寒そうに木々が揺れている。空は曇天で、部屋の中も少し薄暗い。それと同様、心の中も諦めと面倒臭さで靄がかかったようだ。
 この部屋で二人で過ごす時間が増えて、彼女にどんどん惹かれていく自分を止められない。今まで知らなかった彼女をこの短い間にたくさん見ることができた。
 元から彼女に興味があったけれど、知らない部分を知って尚、俺は彼女に惹かれている。仕草や、話し方や、話す内容や、表情が、彼女を鮮やかに彩って、俺の目は離せなくなった。ただ、この部屋で唯一の問題は、彼女に触れられないことだ。彼女の無防備さは時に毒になる。好きなれば尚更。
 けれど、俺には彼女に触れる権利がない。ダンスパーティに誘う権利すら持っていない。着飾った美しい彼女をエスコートするのは、俺ではない誰かなのだろう。そう考えると、憂鬱で、更に、怒りすら感じる。

「あ、いたー。」

すっとフローリーは部屋に入ってきて、いつものように机に持ち物を置いて、ソファに腰掛けた。膝より少し上に設定されているスカートから覗く足が、揃えられてソファに落ち着く。

「ねえ、魔法薬学のレポートってもうやった?」

「ああ、それならさっき終わった。参考図書を使うなら、そこにある。」

「えー!やった~。ありがとう。コールドウェル様様だわ~。」

助かる~と声をあげて、そのクセ、参考図書をスルーして自分が持ってきた本を手に取り、コロリとソファに横になった。

「レポートやらないのか。」

「うん。ちょっと本読んでからにする。休憩休憩。」

彼女はいつも、その肌触りの良さそうな素足をソファに横たえて、そのまま本を読み出す。そして、俺はいつものようにブランケットを浮遊させて、彼女の足の上に被せる。
彼女は「サンキュー」と本を読みながら、小さな声で呟いた。
 それぞれ自分の本に没頭する。何も話さず、自分たちの世界に没頭できるこの時間が好きだ。

 そのうち、彼女は本をパタリと閉じ、ブランケットに包まれる。

「あなた、相変わらずよね。」
「何がだ。」
「皆、ダンスパーティーの話で盛り上がってるわよ。」
「そうだな。」
「…………。」

 特に何とも思わなかった。どうせ、自分は誘われた相手の中から適当に選ぶか、親が選んだ相手といく事になるのだから。自分には関係ない。
 フローリーはこちらをじとっと見つめている。
チラリとそちらを見ると、バカにしたような目をしてこちらを見ている。どうせ、堅物とか、本当に人間なのかとかそういう事を考えているんだろう。その表情に怪訝な顔をすると、逆に「何?」と聞いてきた。

「いや、何か失礼なことを考えていそうだと思っただけだ。」

「んー。コールドウェルってどんな人を誘うんだろうと思っただけよ。」

 彼女は少し誤魔化しながら話していたが、その問いが出てくるということは、こちらが誘いたい相手が自分だなどとは思っていないのだろう。
 あからさまにならないよう、口元を開いた本で隠して、小さくため息をつく。
 ここで、「本当は君を誘いたい。」と言っても、何の意味もないだろう。もしかしたら、フローリーはそんな風に見られていたことを不快に思うかもしれない。 
 
この部屋に、二度と訪れなくなるかもしれない。
 
それなら、この話はしない方がいい。早く終わらせて仕舞えばいい。

「別に、勝手に想像してくれて構わない。」

そう言って、手元の本に視線を戻した。彼女だってこれでいつも通りに戻るはずだ。どうせ「ケチ」とか何とか言われてお仕舞いだ。
 そう思っていたのに、何の言葉も返ってこない。彼女はどこか空中を見つめて、ぼーっとしている。様子がおかしい。どこか、寂しげでもある。

「おい、フローリー。」

声をかけてみたが、聞こえていないようだ。

「フローリー。聞いてるか。」

それでも、反応はない。少し大きめの声で、「おい。」と言うと、彼女はびくりと体を震わせた。

「大丈夫か。何度も呼んだんだぞ。」

「え、あれ、そうだったの?大丈夫よ。平気。」

 そのうちに、彼女は顔を赤くさせた。どう考えても様子がおかしい。
まるで夕焼けを反射しているような顔の赤さだが、まだ夕焼けには早い時間だ。

「私、ちょっと用を思い出したから。」

「え、おい。」

「寮に戻らなくちゃっと。思って。」

 彼女はしどろもどろになりながら、慌てたように本や持ってきたものをかき集めて抱えて、起き上がった。
 こちらも慌てて彼女の手を掴む。

「人の話を、聞け。」

びくりと体を揺らして、ゆっくりとこちらを見た彼女の顔は真っ赤だった。
腕の中の持ち物はバランスを崩して、バラバラと床に落ちた。

「違うの。ただ、顔が熱くて。ただ…、違うのよ。」

彼女は右手の甲を口に当てて、顔を隠した。顔は更に赤くなっていくみたいだ。

「何が違うんだ。」

頭ひとつ分の身長差を埋めるように、屈んで彼女を覗き込んだ。彼女は目を合わせようとはしない。右腕でできる限り顔を覆い隠す。

「怒ってない?」

か細い声で、そう言った。そして、見えるようにした片目でチラリとこちらを伺ってくる。それが、どうにも可愛い。フローリーが、俺相手に顔を真っ赤にして恥じらっている。

「別に怒ってない。きつい言い方だったなら謝る。」

「違うの。ただ、私が、」

フローリーは、息をとめた。そして、ゆっくりと息を吐くように言う。

「熱かっただけ。良いじゃないそれで。」

泣きそうな声だ。
俺は、掴んでいた手をギュッと握った。

「良いわけないだろ。」

そう言って、彼女を見つめた。すると、彼女はゆっくりと手を下ろした。
そして、少し考えて、こちらを見た。

「私、コールドウェルが好きみたい。」

そう、はっきりと言った。
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