私の愛すべき人へ。

くこが

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愛するあなたへ

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 初めて会ったとき。あなたはすでにたくさんの楽しいことを知っていた。たくさんの経験と苦労を知っていた。それは全て、あなたの何物にも変えがたい財産だった。私には持っていないものばかりの素敵な素敵な宝物。そんなあなたと出会ったあの日。あの日から、私はどう変わっただろうか?どう成長できただろうか?成長できているのだろうか?
 私があなたと出会ったのは令和になってすぐの10月。何の縁か、私の両親の結婚記念日。それも、両親の結婚40周年の日。梅田のとある場所で開催された、着席型の街コン。
 女性が着席しているところに男性が反時計回りに回り、一定時間会話を楽しむ。その際の自己紹介材料として家族構成や趣味、出身地などを書き込んだシートを会話中相手と交換し、それを見ながら話し、時間が来たらそれを相手に返して男性は席を移動、女性は次の男性の着席を待って、また同じように会話を楽しむ。そうした中で、前半と後半、同じトークタイムがあり、前半終了時点で好印象の異性やもう一度話してみたい異性をその異性の番号を書き出すシートが回収される。そして後半、もう一度同じように男性が回ってきて一定時間会話を楽しむ。それが終わると最後にカップル成立のカップリングタイムがあり、お互いの番号を選べば見事カップル成立というスタイルだった。それらの記入用紙は全て最初に席に用意されていて、司会者の指示に従って、開始前には自分の自己紹介シートを、前半終了時点で1から9までの番号の書かれた紙を切り離して番号に○をつける。この時点では複数の数字に○を付けて良く、最低でも1つはつけなければいけないが、こちらは後半が始まる時に返却される。しかも、そこには自分に好印象を持ってくれた異性の番号に色○が付け加えられている。後半終了後にも似たような紙があり、こちらは第三候補まで数字を書き、回収されるがこれは返却なし。そして、その代わりにカップル成立となった男女の番号が「女性○番、男性○番」というように読み上げられ、その都度他の参加者は拍手でカップルを祝福する。
 私は3回目の参加だった。3回目ともなると、さすがに何を書いていくのか、だいたい想像はつく。自己紹介のシートには自分の好きなランキングトップ3というものを書く項目があるが、私はそれまでの2回は好きなジブリ映画を記入していた。それ自体はあまり盛り上がらなかったので、3回目はなんと、好きな声優ランキングトップ3を書いてみた。そうするとなぜか何人かはすごく食い付いてきて、会話が盛り上がった。
 あなたもその中で会話が弾んで、コスプレしたときの写真を見せてくれた。それが様になっていて、印象的だったことを覚えている。
 学生時代の行動範囲がほぼ同じ。今は違ってもその当時使っていた電車の路線もほぼ同じ。どこにどういうお店があるだとか何て名前の駅があるだとか、説明もほとんど不要。カップリングの時間になって、あなたは私のことを第一希望から第三希望のどこに入れてくれたのかはわからないけれど、私を選んでくれた。私もあなたを選んだ。
 その日のうちに夕飯をして、次の土曜日にも梅田で夕飯をした。まだ遠慮した距離がもどかしかった。次の火曜日の祝日。理容師をしているあなたが池田にある自分のお店に呼んでくれて、髪の毛を少し整えてくれた。そのあと夕飯をして、五月山の展望台に連れていってくれた。すごく夜景がきれいで、二人で「きれい」とため息をつきながら眺めていたことを覚えている。夜は家まで車で送ってくれて、まだ遠慮した距離がもどかしかったけれど、とても嬉しかった。
 沖縄旅行が好きなあなた。ダイビングやスノボが好きなあなた。沖縄旅行から帰ってきて、お土産を渡すのも兼ねて梅田で会ったとき。沖縄旅行の直前に気持ちを伝えたのもあって、思いきって腕にしがみついてみた。あなたは忘れたかもしれないけれど、フッと笑って、優しく頭を撫でてくれた。入ったカラオケは結局歌わず、私は腕にしがみついている状態で、あなたは私の頭から頬を撫でながら話をしていた。その直後、近くのホテルであなたと朝まで共にできたことは、あなたと出会って最初の幸せだった。
 それからは桜を見に行ったり全然できなかったけれどスノボにつれていってくれたりしたけれど、あなたのお店に行って、その晩、あなたの家に泊まる。それが主流になってきた。でも、それでも良かった。あなたがいてくれる。呼んでくれる事が嬉しかった。
 私より年下だけど、私よりもいろんな苦労を重ねてきたとても優しい人。私が唯一、本気で恋をして、本気でずっと一緒にいたいと思わせてくれた人。時には厳しいことも言うけれど、その言葉の中には優しさが溢れている。
 私が恋をすべき人。私が愛すべき人へ。私の心の全てをあなたに捧げたい。私の心、私の全てをあなたに捧げたい。
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