太陽と月

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出逢い そして救出

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佐伯を見送り、執務室に戻った吾妻は、フロント企業から上がってきていた書類に目を通す。
急を要する物だけをピックアップし、吾妻の裁量で済ませられるものには、その場で全て対応し、蒴也案件のものは鞄に仕舞う。

『こんなもんか』

普段は吾妻の運転手を務める麻生は佐伯に付けてしまった。炎星会が薬物の取引に集中しているであろう今は身辺に危険は少ないはずだ。そう結論付けた吾妻は、自ら愛車のハンドルを取り蒴也のマンションへと向かうことにした。

普段は舎弟に任せてしまうような買い物を久しぶりにしてみたくてコンビニに立ち寄る。

何年か前までは蒴也と2人、コンビニで酒や肴を買い込んでは朝まで飲み明かしたこともあった。
若頭と若頭補佐となってからは互いに多忙で、そんなこともできなくなったのだが。
立場上、行動を共にする時間は増えたが以前のように馬鹿なことをする時間はなくなってしまった。

『でもな』

今は蒴也のマンションの冷蔵庫にビールもシャンパンも山ほど用意されている。アルコールの類いは買い込む必要はない。
生ハムとチーズを籠に入れ、レジに向かおうとするとデザートが陳列された冷蔵庫が目に入る。
菜々子が幼少の頃、熱を出すとゼリーを欲しがったことを思い出す。
あの少年も目を覚ましたら何か食べられるのだろうか。
そうなれば、これだけでは足りない。何種類かのデザートとアイスクリーム、紙パックのお茶とジュースを次々に籠に入れ、最後はレトルトのお粥までをも籠に放り込んだ。

少年が目を覚ました時、何か食べられるといい。
そんな思いで会計を済ませた。

マンションの地下駐車場に車を入れ、思いの外大きくなってしまった買い物袋と蒴也案件のつまった鞄を提げ、蒴也の部屋へと向かった。

静かにリビングへと入れば、蒴也がゲストルームから顔だけ出した。

『蒴也、何か食べろよ。どうせ何も食べてないんだろ?』

思わず声が小さくなるのは、少年をゆっくりと休ませたいからだろうか。

リビングから続くゲストルームのドアをほんの少し開けたまま、疲れた様子の蒴也がソファに腰をおろした。

『一度も目を覚まさないんだ』

高熱に魘されているのだ。それも仕方ないだろう。それは蒴也とてわかっているはずなのに。
それでも不安が募るのだろう。長い付き合いの中で、こんな蒴也を見たことはなかった。

『覚悟はあるのか?』

短く問えば、蒴也は力強く頷く。

『だから連れて帰ったんだ』

蒴也は顔を見たこともない隣室の少年に恋をしていた。自身でも気付かぬうちに初恋を経験したのだ。

『まだ何もわからないんだぞ』

言わずもがな。今はわからないことがわかったとしても、わからないままだとしても蒴也は少年を離さないだろう。

『だから俺が護りたい』

この場合、一目惚れとは言わないだろう。まだ見ぬ相手に恋心を抱いていたのだから。
泣く子も黙る明星会の若頭も焼きが回ったものだ。

いつもは鷹揚自若を絵に描いたような蒴也を、ここまで翻弄する少年の正体はいったい何者なのだろう。
もちろん不安がないわけではないのだが、人間らしい蒴也を見ることが、吾妻にとっては嬉しいことでもあった。
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