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違和感の正体
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翌朝、いつもよりも早い時間に咲恵がインターホンを鳴らす。
鹿島により用意された朝食を皆で摂って、医療センターへと向かう準備を終えた。
『陽、今日は病院で悪い所がないか診てもらおう』
護衛の自動車を前後につけ、麻生の運転で医療センターへと向かう道行き、リアシートに陽を座らせたようとするが、朔也の首に腕を回し離れようとしない。
朔也の膝の間に座らせ咲恵と共にリアシートに乗り込めば、陽は車窓から見える景色に目を輝かせていた。
長谷美由紀との生活が全てだった陽には初めて見るものばかりだろう。
信号待ちの際、母親と手を繋いだ子供が自販機でジュースを買っている姿をじっと見つめる陽は何を思っているか、朔也はついつい勘ぐってしまう。
母親のことを思っているのか?
ジュースが欲しいのか?
いずれも正解ではない。ただただ、いくつものカラフルなパッケージの缶が並んだ、これまたカラフルな四角い箱が気になっているだけなのだ。
何かが欲しい、買ってもらおうと言う概念がない。
それでも受診が終わった『ご褒美』と言う名の下に自販機でジュースを買ってやりたいと考えたのは朔也だけでなく咲恵も、そして麻生さえも同じだった。
予約時間の10分ほど前に医療センターのエントランスをくぐれば、総合受付からスーツ姿の男性が咲恵に黙礼している。
他の患者への配慮だろう。咲恵も小さく一礼し、その男性へと歩み寄った。
特に挨拶もせず、無人のスタッフ専用エレベーターへと促されドアが閉まったところで漸く男性が口を開いた。
『副師長、ご無沙汰しております』
丁寧に頭を下げた男性に咲恵も恐縮しきりで朔也と陽を紹介する。
穏やかな眼差しを湛えたこの男性、医療センターで事務局長を勤める村上は、咲恵が在職中から同年代と言うこともあり男女の垣根を越えた気の置けない友人だと言う。
咲恵の夫、中野保夫が他界した後も咲恵を気遣い、心を寄り添わせてきたのだ。
『予約は総合内科でしたけれど、担当医はどなた?』
咲恵が問えば、村上がやや緊張の面持ちで
『それが、院長なんです』
通常この医療センターでは、院長が担当医となることはないのだと言う。
回診は熱心で全ての患者の名前と症状は頭に入れているようだが、やはり、その他の業務に多忙で直接診察することはないのだ。
『咲恵さんの紹介だと言ったら院長が自ら手を挙げられて』
既に自室で待っているのだと言う。
院長室で診察となるようだが大丈夫なのだろうか、院長室は院長室であって、診察室ではない。診察できる設備は整っているのか。
そんな朔也の疑問に今度は咲恵が答える
『朔也君、ここの院長室は診察室と遜色ないから安心して』
ただ最上階にあると言うだけで、ちょっとした処置ぐらいならできる設備が用意されているのだと言う。
短い会話が途切れたところでエレベーターは最上階で停止した。
鹿島により用意された朝食を皆で摂って、医療センターへと向かう準備を終えた。
『陽、今日は病院で悪い所がないか診てもらおう』
護衛の自動車を前後につけ、麻生の運転で医療センターへと向かう道行き、リアシートに陽を座らせたようとするが、朔也の首に腕を回し離れようとしない。
朔也の膝の間に座らせ咲恵と共にリアシートに乗り込めば、陽は車窓から見える景色に目を輝かせていた。
長谷美由紀との生活が全てだった陽には初めて見るものばかりだろう。
信号待ちの際、母親と手を繋いだ子供が自販機でジュースを買っている姿をじっと見つめる陽は何を思っているか、朔也はついつい勘ぐってしまう。
母親のことを思っているのか?
ジュースが欲しいのか?
いずれも正解ではない。ただただ、いくつものカラフルなパッケージの缶が並んだ、これまたカラフルな四角い箱が気になっているだけなのだ。
何かが欲しい、買ってもらおうと言う概念がない。
それでも受診が終わった『ご褒美』と言う名の下に自販機でジュースを買ってやりたいと考えたのは朔也だけでなく咲恵も、そして麻生さえも同じだった。
予約時間の10分ほど前に医療センターのエントランスをくぐれば、総合受付からスーツ姿の男性が咲恵に黙礼している。
他の患者への配慮だろう。咲恵も小さく一礼し、その男性へと歩み寄った。
特に挨拶もせず、無人のスタッフ専用エレベーターへと促されドアが閉まったところで漸く男性が口を開いた。
『副師長、ご無沙汰しております』
丁寧に頭を下げた男性に咲恵も恐縮しきりで朔也と陽を紹介する。
穏やかな眼差しを湛えたこの男性、医療センターで事務局長を勤める村上は、咲恵が在職中から同年代と言うこともあり男女の垣根を越えた気の置けない友人だと言う。
咲恵の夫、中野保夫が他界した後も咲恵を気遣い、心を寄り添わせてきたのだ。
『予約は総合内科でしたけれど、担当医はどなた?』
咲恵が問えば、村上がやや緊張の面持ちで
『それが、院長なんです』
通常この医療センターでは、院長が担当医となることはないのだと言う。
回診は熱心で全ての患者の名前と症状は頭に入れているようだが、やはり、その他の業務に多忙で直接診察することはないのだ。
『咲恵さんの紹介だと言ったら院長が自ら手を挙げられて』
既に自室で待っているのだと言う。
院長室で診察となるようだが大丈夫なのだろうか、院長室は院長室であって、診察室ではない。診察できる設備は整っているのか。
そんな朔也の疑問に今度は咲恵が答える
『朔也君、ここの院長室は診察室と遜色ないから安心して』
ただ最上階にあると言うだけで、ちょっとした処置ぐらいならできる設備が用意されているのだと言う。
短い会話が途切れたところでエレベーターは最上階で停止した。
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