太陽と月

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違和感の正体

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なんとも殺伐とした気分のまま帰宅した朔也は、すぐさまゲストルームのドアを開けた。
急いた気持ちを押さえつつ、音を立てぬようドアを開ければ、佐伯に額の汗を拭われながら陽が眠っている。

夕方暗くなる前に咲恵を帰宅させ、その後は佐伯が陽の様子を見ていたようだ。

楠瀬からのメッセージで、陽の様子は報告が入っていたが、やはり医師の存在は心強い。

『解熱剤を自分で飲めたんだよ』

だから点滴も必要なく、熱も落ち着いてきたと言う。

陽の年齢だけを考えれば、薬を飲むなど造作もないように感じるが、何せ初めての飲み薬なのだ。
確率的に少ないとは言え医師として副反応にも気を回したのだろう。

『予想はしてたけど』

初めての外出は、やはり陽にとっては大きな負担だったのだ。

疲れて体調を崩してしまっただけだから、休めば元気になるけど、と続く佐伯の言葉に少々安堵した朔也だが、やはり目の前の陽が心配でならない。

あの男「タツヤ」は、こんな風に陽を心配したのだろうか。
ふと過る、そんな思考をかぶりを振って追い払う。

前田達也は長谷美由紀と陽を置いていった男なのだ。気に留める必要などない。

頭では解っていても、何故こんなにも感情を乱されるのか。
朔也自身、既にその答えに辿り着いていた。

当然、陽を捨てたことを許せないから。しかし、それだけではない。
陽にとって何者でもない自分と、陽と血縁のある「タツヤ」を比べたのだ。
醜い嫉妬。そう言われても仕方のない感情。

嫉妬を燃やすに値しないことなど、頭では理解しているのだ。

陽を知り、この歳になって覚えたばかりの感情を、やはり今も巧く消化できずにいる。

『若、何かあったのかい?』

つい先日まで、朔也が何を考え何をしていようとも興味を持たなかった佐伯が訝しげに問う。

佐伯に話したところで、吾妻の報告を待たなければ、何かが変わるわけではないのだが

『陽の父親が見つかったかもしれない』

闇医者などと言う生業で生きている佐伯は、組関係の仕事のみを依頼していた時は常に眉間に皺を寄せていた。ところが、陽の診察を依頼してからこっち、陽の前では柔らかな表情を見せていた。
しかし、たった今の朔也の告白が以前の佐伯の表情を呼び戻したようだ。
険しい表情を朔也に向けている。

『探しだしたのかい?』

明星会はそれほど暇ではないか。

朔也が答える前に、自身の疑問に自身で答えを出した佐伯は朔也からの答えを待っている。

『いや。恐らく偶然だ』

前田達也は、朔也が陽を保護したなどと思ってもいないだろう。
陽が『陽』と呼ばれていることも知らなければ、生死すら知らないはずだ。
知りたいとも思っていないのかもしれない。

『吾妻に調査を命じてある』

無意識のうちに息を詰めていたのだろう。佐伯がふっと息を吐く。

『それなら、すぐに真実がわかるね』

真実が露呈したならば、己はどうするべきなのだろう。どうしたいのだろう。

黙り込む朔也に、佐伯はそれ以上何も聞かず、男2人で陽の寝顔を見守った。
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