太陽と月

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違和感の正体

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熱が下がり顔色のよくなった陽に一同が胸を撫で下ろす。
咲恵も鹿島や楠瀬も、予定時刻よりも随分と早く顔を見せた。

『消化の良いメニューなら和食が一番旨いですから』

鹿島により用意されたのは珍しく和食で、ふっくらと炊いた粥に茶碗蒸し、カボチャの煮物と崩し豆腐の餡掛けと目にも鮮やかなものだ。
それらをほんの少しずつ取り分ければ、陽はゆっくりとしたペースで食べ進める。
昨日は朝食を摂っただけで、昼も夜も食事ができなかったのだ。食べてくれることが嬉しい。

束の間の食事を楽しみ、今日も今日とて後ろ髪引かれる思いで玄関を出ようとする朔也に声をかけたのは陽の方からだった。

『待ってる』

この場合、朔也が脂下がった顔付きになってしまうのは仕方のないことだろう。
咲恵以外の2人は有らぬ方向に視線を泳がせ、朔也の顔を見ないようにしている。

『陽くん自分の気持ちを伝えられて偉いわね』

やはり咲恵は大物だ。朔也のことなど意に介さず、陽の小さな小さな主張を誉めている。

漆黒の髪を一撫でし自宅を出た朔也は弛む頬を押さえつつ迎えの自動車へと乗り込んだのだった。


組事務所に到着後、待ち構えていた吾妻により執務室に押し込められた。

『まだ全てを洗ったわけではありませんが』

と前置きして始まったのは、やはり前田達也の調査報告であった。

大工だった父親とスーパーでパートをしていた両親の元で育てられた達也に兄弟はない。中学までは両親と3人、公営住宅で慎ましくも幸せに暮らしていたようだ。

しかし達也の中学卒業が迫った頃、父親が仕事中に大怪我をしたのだ。
元請けの労災隠しで生活の補償も受けられず、母親のパート収入だけでは生活が立ち行かなくなり、追い込まれた両親は誰に相談することもなく達也を道連れに一家心中を図ったのだ。

母親の運転する自動車ごと崖下へと転落したものの、達也だけが軽傷で救助されたのだ。

母親の遠縁の手を借り執り行われた葬儀は会葬に訪れる人も疎らな寂しいものだったと言う。

合格通知の届いていた高校への進学を諦めた達也は中学の担任に斡旋された社員寮のある繊維工場へと就職し、ほどなくして長谷美由紀と知り合ったのだ。

『ただ、長谷美由紀は体を重ねた女の1人でしかなかったのかもしれません』

更に続けられる報告に朔也は自身の耳を疑ったが、吾妻が質の悪い冗談を言っているようには見えないし、正確な調査をしないわけもない。

前田達也は、その容姿から就職後間もなくから同じ工場で働く年上の女からよくモテた。声を掛けられれば見境なく女を抱き妊娠させ堕胎させるようなことを繰り返していた。

その魔の手は年上の女から、大人しく扱いやすい長谷美由紀に伸びたのだろう。
長谷美由紀に女の快感を教え込み、離れられなくした頃に、前田達也は会社から解雇通告を受けていた。
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